石川弘子『あなたの隣のモンスター社員』

いつぞや、その存在すら忘れていた池田信夫が、上杉さんに名誉毀損で訴えられていた件で、池田信夫に対して、ブログの記事の「削除」の要求が認められたことは、私には一つの「ネット時代」の終わりを思わせる事件だったと思っている。私は今回の件が、一つのネット・リテラシーの「基準点」になっていくのではないか、と思っている。
池田を一言で言うなら「炎上マーケティング」を、御自慢の経済学者の「知識」で、実践して儲けようとした「知識人」だと言えるだろう。そして、彼に「習って」、ネットで暴論を吐いて、それをなんらかの「自分への注目」につなげることで、自らの「ビジネス・モデル」にしていたような連中は、今回の件で、一つの「規制」を意識するようになった、と言えるのではないか(池田が、原発推進的発言を繰り返してきたことは、今さら言うまでもないが、同様の「原発推進」<炎上マーケティング>で飯を喰っている連中はさて、裁判所から、記事の削除を命じられないんですかねw)。
その理屈はいたって単純で、こういった知識人たちが

  • 記事の削除を求められる

ということである。池田は今回の件で、なんらかの「犯罪者」になった、ということなのだろうか? 私には、どうでもいいことだが、いずれにしろ、こういった知識人の書くものの「一部」は、削除を求められるものを含んでいる、という事実を示した、ということであろう。
今週の videonews.com では、「友だち地獄」という本を書いた方で、土井先生を招いて、神奈川の事件を出発点にして、子どもの「いじめ」の問題を、再度検討しているが、番組ではその難しさが強調される形になっている。もしも子どもが、なんらかの「いじめ」の空間から脱出できる通り道を確保できているとするなら、それは、家と学校と塾という、この

  • 閉鎖された空間

の非常に狭い、何人にもならない人間関係の「外」に出なければならないのだが、他方において、今回の事件も、上級生との関係が原因となっているわけで、さっそく、上記の「閉鎖空間」の

  • さらなる強化

を求めて、モンスター・ペアレント、クレージークレーマーたちが、全国で暗躍している、というわけである。そうやって、勉強だけしかない「関係」それも、狭い関係だけを、純粋に培養していった子どもは、どこか、社会性を欠く、なんらかの欠陥のある大人になってしまうんじゃないのか、と思わなくはないが、そんなことを言うと、いわゆる進学校の「エリート」たちは、全員、なんらかの人格障害をもっている、なんていう話にまでなりかねないわけで、ともかくも、勉強ばっかりやって、青春時代を過ぎてしまったような人たちは、どこかしら自分の無謬性を疑う性癖が必要なんだろう、と自分を含めて肝に命じなければならない、と思うわけだ。
掲題の本がおもしろいのは、そういった「モンスター」が、もしも自分の所属する会社の社員に

  • なってしまっていたら

どうしたらいいんだ、といった問題に取り組んでいるからであろう。ご存知のように、日本には会社法というのがあって、社員は簡単に解雇できないことが知られている。つまり、解雇を成立させるには、なんらかの合理的な理由が求められる。つまり、それを証明しなければならない。
ところが社員というのは、試用期間がない。いったん入ってもらって、一年くらい回りが見守って、おおよそ、どんな感じの人なのかな、と分かってもらって、やっと「こういう性格の人なら、うちらの仲間になってもらおう」というふうにやれない。最初はだれも、この人の性格が分からない時点で、中に入ることになり、人格的に問題がある場合、あっという間に、回りとトラブルを起こして、

が始まる。この炎は、すごいものである。簡単に、回りの仲間たちを、ナーバス・ブレイクダウンさせていく。会社にだれも来れなくして、会社を倒産させる。なぜなら、そもそも会社共同体は「信用」によって繋がっていることが「前提」だから、それを裏切って、のし上ってきたような、学校勉強バカは、回りの人間の「信頼」を裏切って、利己的であろうという行動原理を貫こうとするので、どんどんと周囲に「被害者」を増やしていく。

「遅刻については、K本所長が勝手にシフトを変更したので、出勤日だと思っていませんでした。休みだと思って寝ていたら、K本所長から電話があって、突然怒られたんです。勤務が変わったなら事前に教えてくれないとこっちも対応できません。荷物の破損についても、確かに誤って荷物を落としてしまい、壊してしまったが、自分はすぐにお客さんに謝りました。お客さんがウソを言っているんです」
と主張してきた。
K本所長の話と食い違っている。社長は困惑し、再度K本所長に話を聞いた。遅刻の件に関しては、たしかに最初に決めたシフトから変更した日もあった。しかし、シフト変更の際は、必ず本人に話し、新しいシフト表も渡している。M野も「わかりました」といって受け取っている。荷物破損の件も、お客さんに怒られている様子を見ていた他の従業員もいる。M野がお客さんに対して失礼な態度を取ったのは間違いないだろうということだった。

O田部長は、今までのY崎の問題行動とその際の彼女の言い訳について触れた。Y崎は、
「O田部長は、単に私が目障りなだけじゃないですか。働く母親は邪魔だみたいな言い方して、ひどいですよ。私は仕事も責任もってやっているし、社長もその辺は理解してくれています」

Y崎は涙を浮かべながら、私をキッと睨むと、怒りの言葉をぶつけてきた。
女の敵は女だっていうけれど、本当ですね。同じ女性の立場でありながら、女性蔑視の発言をするなんて、それでも社労士ですか! 社長も理解がある振りをしていたけど、結局は子持ちの私が邪魔なんですね」

後日、私も録音された内容を聞く機会があったが、想像以上にひどい内容だった。「頭使って仕事しろよ!」「親の顔が見てみたいな。どんな教育を受けてきたんだ」「亭主も馬鹿なのか?」など、A子の人格を否定するような発言をしたかと思うと、何かをたたいたり、物をどこかにぶつけるような音や、椅子か机の脚をガンガンと蹴りつける音が録音されていた。A子はよほどの恐怖を感じたに違いない。

たとえば、こんなふうに考えてみよう。学校の成績さえ良ければ、高校生は「嘘をついてもいいか」(もっと言えば、イジメをしてもいいのか、極論を言えば、ISのように人間の首切りをしてもいいのか)? この質問は深い。嘘をついたところで、この子どもの学校の成績は変わらない。だったら、いくらでも嘘をついたって「(学校の成績というモノサシ、東大受験というモノサシでは)評価される」じゃないか、というわけである orz
たとえば、こんな例を考えてみよう。もしも、ISが人間の首切りを「生で見れる」という「ダークツーリズム」を行ったらどうなるか(アメリカが無人機でIS兵士を虐殺する「コロシアム」を開催したら、でもいいでしょう)? つまり、このISの首切りを見た「不謹慎者」は、

  • いろいろ考えさせられた

と「神妙」な顔をする、というわけである(まあ、中田考さんいわく、この中東地域では、シリアやイラクのような暴虐国家では、国家自体が、同じことを行っていて、聴衆はそれを「娯楽」として消費していた、といったことを言ってたわけで、案外、今ほど治安が悪くなる前には、似たようなツアーが地下では存在したのかもしれませんがw)。さて。この「ダークツーリズム」は「アクセプタブル」であろうか(そもそも、これに似た例を、筒井康隆は短編小説で書いている。もちろん、某福島第一ダークツーリズムの人は、このことを「よく」知った上で(というか、最近はこのことに一切ふれすらしないけど)、このプロジェクトを始めたことは、藤田さんの本の主張でしたけどねw)。
上記の引用の例に見られる特徴は、明らかに、彼ら「モンスター社員」たちは、この会社内で「協調」的であろうとするような、「受動的」な態度を貫くような

  • 戦略

を選んでいない。つまり、彼らはその会社が最も「効率的」であるには、自分がどう行動すればいいのかを毎日考えていない。自分が原因となって、回りの仕事が支障を来すことは、「後から」考えるような

  • 優先度の低い

命題なのだ。もちろん、そこにはいろいろな事情があるのかもしれない。もしかしたら、この本でも紹介されているような、なんらかの精神的な病にまで、「彼ら自身が(過去のイジメなどの体験によって)追い込まれていた」のかもしれない。
大事なポイントは、現代社会は「高次元連立方程式」だということである。たった一つの等式を解けばいいわけではない。別の変数がいくつも重なっている。ある側面から見て「だけ」なにかを言っていれば、なにかが言えたように扱ってくれるのは、学校の試験の

  • 世界

だけなのだ。現実社会は、多くの連立方程式から成り立っている。その複雑な網目に意識を配っていかなければ、妥当な(世間も一緒にハッピーになってくれるような)解には至れない...。

あなたの隣のモンスター社員 (文春新書)

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