戦争のパラドックス

それほど、今回のフランスのパリのテロについて、情報を追っているわけではないが、結局、寿司屋が襲撃されたのかされなかったのかの話はどうなったのだろうか。ちょっと分からないのは、日本をテロのターゲットとしての、寿司屋の襲撃だったというなら、なんらかの、そういったアナウンスがあってもおかしくないと思ったからなのだが。
例えば、以下の記事を見ると、むしろ、現場のフランスの人たちの方が冷静な印象を受ける。ちょっとパニックになって、感情的なことを言ってしまっているのは、むしろ日本人に多いように思われるのだが。

ドミニク=ドヴィルパン元首相はさらに「軍事介入はテロリズムを育成・醸成する」と指摘した上で、「この種の空爆や軍事介入によって、テロリスト集団の除去という私たちが期待する結果はもたらされないと、我々は過去の経験から知っている。50 ~ 60年の経験から、いやここ10年の経験だけでも、軍事介入はテロを根絶するのでなく、テロの土壌をつくってしまうのは明らかだ」と付け加えた。
左翼党・党首にして2012年大統領候補だったジャンリュック=メランション欧州議会議員は9月26日に仏国営放送「France2」の番組に出て「以前よりもはるかにひどいカオス・混沌が軍事介入によってもたらされることを世界の人々はまず知るべきだ」「誰がイスラム聖戦士を財政的支えているのか...ということにもっと関心を向けるべきだ。それはサウジアラビアカタールの君主・国家元首たちだ」と論じた。
フランス保守派から左派までがイスラム国・空爆に反対する3つの理由 | 日仏共同テレビ局フランス10

フランスでは、右も左も、軍事拡大に反対だと言う。まあ、冷静だと思うわけである。これは、単に「ファクト」の問題であって、暴力の連鎖を行っても、少しもテロは減らない。いや。むしろ、そういった「断固決然」の

  • 国家が恥をかかされた

みたいな、激おこぷんぷん丸をやっている限り、相手のテロはエスカレートをしていくだけだ。
明らかに、こういったテロは、本当の意味での「破壊」を目的にしていない。最初は、小規模なものから始まって、状況の改善が見られないということで、今回は、コンサート会場やサッカー球技場といったような、大衆の娯楽場所が標的にされたが、そのテロの内容は、どちらかというと、大衆の

  • 恐怖

を煽るといったような、かなり「計算」された、実力行使であって、スタジアム丸ごと殺すような、大量殺人といった行為をダイレクトに目指しているわけではない。
よく考えてみてほしい。犯人たちは、こうして大衆に「恐怖」を植え付けることを最優先に行ったわけであるが、結果的に自分が射殺されている。これが、数を競う「戦争」であれば、スタジアム丸ごと殺すような、殺傷能力を使うことを最優先に考えた、ということになるであろう。ということは、今回の行為は、まだ、なんらかの

  • 交渉

を意識したテロだと考えることもできる。
テロリスト側は、とにかく、こういった行為によって、「恐怖」を植え付けたい、と思っている。そういった「脅し」が、今後の交渉を有利にする、という信念がある。そういう意味では、確かにどこか、戦前の帝国日本軍のカミカゼ的な戦い方に似てはいるわけである。
つまり、フランス側にも、面目はあるだろうが、そういったものを保ちながらでも、なんらかの「交渉」を行っていった方が、どう考えても、フランスの未来は明るい。
泥沼に、何年も、フランスのテロが続くと、国民が疲弊してくる。国家の活力を奪われてしまう。
結局のところ、相手の目的が「脅し」である限り、こういった暴力による脅しが、単に続くだけでなく、こちらが「強硬策」を続けていると相手に受け取られる限り、少しずつ

していくわけである。
しかし、である。
私はこういった展開において、「状況」論によって考えることは、大きなミスリーディングではないか、とも思うわけである。
ということはつまり、フランスは今や、このような「状況」に陥ってしまった限り、ISとの全面戦争は避けられない、みたいな。
なぜ、そう思うのか?
よく考えてみてほしい。国家とは、あらゆる「情報」が集まっている場所である。そういった場所において、

  • ISに<してやられた>

という表現は正しいだろうか。
ここに「戦争のパラドックス」というものがある(こういうことを言うと、また怒られそうであるが)。
もしも、相手国によって、先制攻撃を行われて、「こういった状況になってしまっては、もはや全面戦争は避けられない」と言うのなら、そもそも、そういった状況になることが、

  • 予測されていなかったはずがない(=もしも予測すらできていなかったとするなら、その国は馬鹿な国なのだから、存在する価値がないことになる)

わけであるから、ということは、こういった状況はその国家によって「誘い込まれた」と解釈するしかなくなる。予測できていたにもかかわらず、その対策を行っていなかったとするなら、それはなぜか、と問わないわけにはいかない。
その答えは一つしかない。対策をしない方が、今後、自分たちが行いたいことを行うために「有利」な状況を導けるから。
今回のパリのテロによって、フランス国民は、フランス国家がシリアに、莫大な軍事介入を行うことを「止められなくなった」わけである。いくらでも、フランス国家は、軍事介入を行えるようになった。
ここは重要なポイントである。大事なポイントは、だからといって、このテロがフランス国家によって「仕掛けられた」といったような陰謀論を言っているわけではない、ということである。しかし、だからといって、あらゆる優先度を無視して、フランス国家がテロの防止のために、全勢力を注いでいたわけではない、ということなのだ。そしてその理由の何割かには、こういったテロが実現されることによって、国民のポピュリズムを煽ることが可能だ、という計算があったことは十分に考えられる。
フランス国家は、もしかしたら、対IS戦争への介入に対する、国民の理解が低いことに不満をもっていたのかもしれない。こういった国民の無関心を解消する、一つの方法として、

  • 敵に国家を襲わせる

という方法は、何度も歴史において繰り返されてきた。日米戦争の真珠湾攻撃は、無線を傍受していたアメリカ軍にその奇襲の情報はダダ漏れであったにもかかわらず、なぜか「成功」したわけである。
軍事的対立を、国民に納得をさせることができると、軍事費の膨大な投入を国民に認めさせることが可能になる。つまり、税金が大量に国内軍需産業に注ぐことができる。
私は「国際政治」というのは、怪しいと思っている。少なくとも、あらゆることは眉唾だと思っていないと、寝首をかかれる、と思っている。
一体、だれがISの石油を買っているのだろう? おそらく、市場より安い値段で売っているわけで、この安い値段の石油を欲しいと思う国の中にどうして

が入らない、なんていうことがあるだろうか(少なくとも、第三国を介して買っていたとしても、少しも不思議はないのではないか)。
国際政治において、本当の意味で対立しているなんていうことが、どれほどありうるのだろうか。ISの歴史的経緯を考えるなら、むしろ、彼らは、アメリカ、ロシア、フランスから、さまざまな「軍事協力」を受けてきた経緯があるわけであろう。いろいろと便利だから、アメリカ、ロシア、フランスは、こういったISの前身の形態の組織を使ってきたわけであろう。
なんか、うさんくさいな、と思ったとしたら、あなたには政治のセンスがある。
例えば、なぜ日本の検察は、オウム真理教の存続を許すんだろうね。なんで、あれほどネトウヨの目の仇にされている「極左」、たとえば、中核派とか革マルを、団体ごと消滅させようとしないんですかね。言うまでもなく、存続したらしたで

  • 利用価値

があるからでしょう。もしかしたら、今でも、ISとアメリカの間には、なんらかのバーターがあるのかもしれない。お互い、多少の人的犠牲をだすことは、国際社会からの視線をかわすために必要だとしても、その裏では手を握って、なんらかのウィンウィンな関係になっているのかもしれない。
いずれにしろ、国家なんていう「無敵」の集団を、ナイーブな「美少年」のように、繊細な傷つきやすい「感情」みたいなものを勝手に読み込んで、感情移入をしているような「たま」ではない。むしろ、

  • たぬき

のような、腹に一物隠していると考える位が、ちょうどいいわけである...。