色のないお金

例えば、ISの収益構造を見てみると、石油の販売以上に収益となっているのが、占領地域の銀行からの現金の「強奪」である、とニュースになっていたが、このことは、なかなか、現代社会のボトルネックをついた、おもしろい観点なのかもしれない、と思ったわけである。つまり、現金とは、札束のことであり、もっと言えば、アメリカドル札束のことだと分かるであろう。こういったものは、どこの国の銀行にも、たっぷりと存在している。その札束を丸ごと奪われると、言うまでもなく、札たばに色はないわけだから、裏の世界に流しやすいわけであろう。
確かにことのことは、お金の弱点だと言いたくなる。しかし、世界中のお金持ちが、ある意味において、この札束の特性によって「利益」を得ているとも言えるわけである。つまり、マネー洗浄と言われることで、お金持ちたちは自分のもつ「やばい」お金を、その札束に色がないという特性を使って、さまざまに無毒化してきた。だから、この特性をISにだけ使われないようにしたい、と思ってもできない、ということなのであろう。
しかし、そうであるからこそ、このISの最も重要な特徴が意味を帯びてくる。なぜ、欧米列強がこぞって、IS殲滅のための爆撃を行っているのかと言うなら、もうそれ以外の手段を思い付かないところにまで追い詰められてしまったから、といった性格がある。
早い話が、ISをどうやって最小化しておくかの問題には、人と金の問題が解決しない限り、無限ループにはまっていると言いたくさえなる。
どんなに爆弾を落として、主要なリーダー格を殺していっても、どんどんと新規の「メンバー」がヨーロッパを中心としてリクルートされてしまう。これを防ぐには、「情報戦」に勝利しなければならない。つまり、なんとかして、ISがネットを使った「宣伝戦」に勝利しなければならないのだが、インターネットの性質上、彼らの一切の情報発信をネットの「検閲」によって防ぐという発想は、今のネットの性質から考えて、うまくいっていない。
つまり、そうやってリクルートされたメンバーに給料というお金さえ払えている限り、意外と、このISという名の下に行われている活動が「しぶとい」ことが分かるのではないか。今、欧米は爆撃作戦を行っているが、一体、いつになったらこれは終わるのか。そして、ISはこの欧米の爆撃作戦だけで、滅びるような性質のものなのだろうか。
しかし、もっと悲惨な未来が待っているかもしれない。欧米の爆撃によって、結局、ISの殲滅が、いつまでも「はかばかしい」性質をもつことなく、ずっと、ずっと、続いたとしたとき、何が起きるであろうか。欧米もお金は無限にあるわけではない。いつらでも使えるだけの、爆弾を国家はばらまけるほどのお金をもっているのだろうか。
しかし、もっと決定的に重要な視点がここには欠けている。それは、そもそも、ISが言っていることは、イスラーム社会の「対立」にしか、ある意味において、彼らは言及していないからだ。ISが宣言しているシャリフ制とは、世界中のイスラム教徒に、ISが主張しているシャリフを、世界中のイスラーム教徒すべてに、彼がシャリフだと認めろ、と迫っているわけである。
そういう意味で、ISが問題にしているのは、むしろ、世界中のムスリム社会に向けて語りかけているのであって、そのムスリム社会の外ではない、と言うこともできるわけである。彼らは、世界中のムスリム社会の一人一人のイスラーム教徒に対して、彼らが宣言をしている彼らのシャリフを、全員に認めろ、と迫っている。
しかし、である。
もしも、これが認められるということになった場合、それは何を意味しているか。世界中のムスリム社会が、ISの命令に従う、というふうに考えることもできる。つまり、もはや、シリアの中だけ、爆弾を落としていれば済む話ではなくなる。世界中のどこの国にも、ISのメンバーがいる、ということと同じになるのだから、逆説的に言うなら、

  • どこの国にも爆弾を落とさなければならなくなる

というわけである。さて。それで結局、いつになったら、「戦争=爆撃」は終わるんでしたっけね...。