掲題の本は、近年の自民党のネット戦略の本格的な分析であるという意味で興味深い内容になっている。
例えば、ある若い人で、毎日、朝の少ない時間であるが、新聞を読む代わりに、ヤフーニュースのトップページで、気になる記事を読んでいる人がいるとしよう。若者は、基本的に学校に通うお金も親が出してくれているという状況の貧乏状態ではあるが、近年の傾向として、スマホやガラケーをもっていない、ということはありえなくなってきた。ラインで友達と連絡をとるにも欠かせないアイテムという認識があるから。しかし他方において、家では光回線を引いていなかったりする。つまり、最近のスマホの契約では一般的な一定の従量制限のあるネット環境でインターネットを利用するというライフスタイルが一般的になり、その結果として、あまりトラフィックの大量に発生するストリーミングは視聴しない、といった傾向があるのかもしれない。
このように書くと、いずれにしろ、インターネットの一般的な普及率というのは馬鹿にできない、と思いがちである。しかし、そうだろうか。というのは、インターネットをやらない人は、やらない人で、徹底してやらないからだ。
つまり、昔からのオールドメディア、ということである。ガラケーは基本、電話のためにしか使わない。情報は、テレビと新聞。しかし、よく考えてみると、これで結構な情報量だと言うこともできるわけである。田舎の地元の地方紙は、その地域の細かな情報を、紙面いっぱいに、毎日作られているわけで、むしろ、ネット住民の方が新聞を隅から隅まで読み込むなんていうことは、毎日やらなくなっている(それは、ネット上の記事を、基本、タイトルしか読まないとか、斜め読みして、分かった気になる、ということを繰り返しているのと、同値なわけで、つまり新聞の情報になんらかの特別感がなくなっている、ということなのであろう)。新聞の抽象的な記述は、テレビのワイドショーを見れば、素人にも分かりやすいように、丁寧に説明してくれる。さて。それ以上の何が必要だというのだろうか。
ネットというのは、なんというか「ネット村」といった感覚が分かりやすくて、私たちが日々見ている記事の発信媒体や、発信主体は、けっこういつも同じ人だったりするわけで、ようするに、なにか
- 限られた人数
の人がいつもいる場所といった印象をどうしても持ってしまう。なにか「ローカル」な場所という印象が強い。
そのことをふまえて、上記の二つのケースを考えると、確かに、ヤフーニュースのトップページを、自民党が電通を使って、自分たちに不利な記述をできるだけ排除させるように圧力をかけたとしても、なんというか、
- それだけでは後者の存在には不十分
といった印象がぬぐえない。つまり、注いでいる労力のわりには、あまり、大きな影響力を得られていない、ということになるのであろう。
確かに、ネットは近年のSNSの普及により、社会的な影響力をもった人たちが、さまざまな「普通」の人からの意見の具申をツイートとして読むようになるといった状況が起きていることを考えると、そういった
- ターゲット
に向かって、自民党のネット工作員たちをアルバイトで雇って、そういった「特定個人」を狙い打ちで
- 攻撃
して、マインドコントロール(オウムが一部の学者を狙い撃ちしたように)することには向いているのかもしれないが、広い意味での国民全員の「投票行動」を左右させるような、影響力という意味では、このネットのローカリティが邪魔をして、労力のわりには限定的にならざるをえないというのが、現状のように思われる。
第2次安倍内閣にて、官房副長官に就任した世耕弘成は、コミュニケーション専修の大学院修士過程を終了している。国会議員になる前にはNTTの広報部門で働いていたこともあって、政治マーケティングやPRについて、多くの知識と高い関心を持っている。
世耕さんという自民党の政治家は、小泉政権や第1次安倍政権の頃は比較的、マスコミの全面に出て話されていた印象があるが、第2次安倍政権では、完全に裏のフィクサー的な立ち位置になっているようである。大学で、コミュニケーション系の学問(心理学?)ということだが、大事なポイントは、NTTの仕事に関わっていた、ということであろう。つまり、基本的にネットを、かなりインフラサイドから考えられるような地頭のある人だ、ということである。
世耕の著書『プロフェッショナル広報戦略』のなかに、官邸の広報戦略について興味深い記述がある。小泉が、当時の田中真紀子外務大臣を更迭するにあたって、支持率が急落した際に、世耕が官邸広報改革プランを小泉に提案している。そして、これも2015年の官邸広報戦略に通じるものである。
官邸予算の一部を使い、コミュニケーション戦略チームの部屋を作る。そこにメディア対応の専門家を常駐させ、世論調査をしたり、全国のテレビや新聞、雑誌をモニタリングする。
毎日多様な問題が発生する中で、総理が番記者に対してどう答えたらよいかを、世論調査などのデータに基づいて、そこで組み立てていく。プロの人材を5、6人集めてチームを組んでやれば、とてもいい広報ができる。
年間予算1億円くらいで可能という企画書である。
(『プロフェッショナル広報戦略』p.46-47)第2次安倍内閣では、外務省の広報などを手がけた経験がある、ジャーナリストの谷口智彦をスピーチライターとして内閣官房に起用している(その後、内閣官房参与)。広報予算を増加し、内閣官房広報室と政府広報室の機能強化が謀られているが、その構想の萌芽といえよう。
そもそも、近年の「選挙」は、選挙を行う前から、
- 統計的結果
については、すでに分かっている。というのは、それだけ、統計学的なサンプル調査は誤差が少ないからである。ということは、今日が終わった夜中にでも、そういったサンプル調査を行えば、どういう戦略で明日、安倍総理が振舞えば、「人気」が上がるかは、分かっているわけである。
これが、マーケティングである。
自民党には、電通というメディアに巨大な影響力を有する企業がコミットしていた。しかも、前述のように、電通からの積極的な提案が行われていたようだ。ただし、これは陰謀といったようなものではなく、自民党、電通、関連企業が暗黙に期待しあう忖度を働かせ、それらが連鎖したものだ。その期待とは、将来の大きな案件の発注に対する期待である。
つい最近も、私たちは「恐しい」状況をテレビでまのあたりにしたのではなかったか。そう。東京オリンピックの不正疑惑における、海外のメディアによって作られた
- 関係者相関図
を日本のテレビが報道したとき、恐しいことに、そこには、真ん中にデカデカと描いてあったはずの電通が見事なまでに、消されていた。
あのさ。
これを「陰謀じゃない」とか言うこと自体が無意味じゃないですかねw
日本は、自民党と電通によって支配されている。日本が脱原発をできないのも、この自民党と電通の鉄の結束のため、というわけであるorz。恐しいね。
自民党本部T2チーム
この一覧は今のネット状況を非常によくあらわしている。自民党のネット工作員が最も活発に活動をしているのが、ツイッターと2ちゃんねるである。では、2ちゃんねるで大量に見られる、中国や朝鮮への差別発言は、自民党がお金を出してアルバイトとして雇った、ネット工作員による書き込みなのだろうか? 間違いなく、なんらかの
- 関係
がある、と考えるべきだろう。重要なポイントはなんだろう? それは、何が陰謀論で何がデマかといったことではなく、
- 自民党は自党が選挙で勝利するためなら、どんな手段を使ってでも、選挙に勝利する
というところにある。実際に、今の政権与党の多くが、日本会議のメンバーであるだけでなく、悪名高い在特会とも「ねんごろ」であることが知られているわけで、自民党は選挙に勝つためなら、手段を選ばない。平気で、中国や韓国への罵詈雑言を行う、というところにある(「工作員」とはそういう意味なのだからw)。
恐しいね...。
- 作者: 西田亮介
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