情報戦論

昨日紹介した、西田さんの本は、この本の著者の思想がどうこう以前に、その「内容」において、非常に興味深いものをもっている。それは、自民党がどのようにして、いわゆる

をコントロールしているのか、についての、ある側面をあばいているからである。

ダッシュボードアプリ開発・運用」とは、どのような取り組みだったのだろうか。まず自民党は全候補者に iPad mini を配っていた。「ダッシュボード」とは、その iPad mini での閲覧が想定された関係者向けのクローズドなウェブザイトのことである。
ここにはT2のさまざまなインサイトがコンテンツとして配信されていた。2012年の衆院選においては、広報関係者向けのサイトにインサイトがあとめられていて、実際には使い物にならなかったというかんけいしゃ の証言を先に挙げたが、およそ半年のあいだに大幅に軌道修正していたことがわかる。
このダッシュボードの主なコンテンツは、レポート、自民党幹部の演説、選挙公約、遊説情報、動画コンテンツ、ソーシャル・データの分析で構成されていた。
T2チームのコンテンツは、1日単位でまとめられて配信されていて、日常的な分析をまとめた「定常レポート」、端的に取り組むべき施策としての「今日の打ち手」、一般的な話題や出来事をまとめた「今日の世の中キーワード」の3つのカテゴリごとに、それぞれメッセージとエビデンスがA4、1枚に簡潔にまとめられていた。
これは多忙な選対本部でも活用可能なように配慮したということだろう。
筆者は、T2チームが配信していたレポートを一部入手した。たとえば、2013年7月13日のものは次のようなものであった(図9)。

メディアと自民党 (角川新書)

メディアと自民党 (角川新書)

私がここで注目したいのは、上記の「今日の打ち手」である。
これは、例えば、自民党がアリバイトで雇うことになる、ネット工作員を使う上で、ほとんど同じノウハウが利用されていると考えられるであろう。
このパワポの資料は、毎日、1回だけ、アルバイトに渡される。彼らはネット上を「ステマ」する。匿名のユーザを作成して、この「今日の打ち手」に関係する、電凸を行う。
大事なポイントは、こういったネット工作員が、何百人と総動員され、一度に、ほとんど同じ目的をもって動く、ということである。
例えば、最近の話題で言えば、舛添東京都知事の問題がある。そもそも、舛添さんは自民党に推薦されて当選したのだから、最後まで自民党は彼を支えればいいのにそうしない。その理由は、舛添さんが東京オリンピックに関連する、公共工事

  • お金の無駄使い

として、拒否しているから、と考えるのが普通であろう。そこで、自民党は、以前に猪瀬元知事を辞めさせたのと同じ方法で、世論の圧力で追い出そうとしている。そして、舛添さんが辞めた後には、自民党の言う公共事業を全てOKにする人を推薦することになるだろう。
ネット工作員の役割は、いかに、舛添さんが

  • 都知事を辞めるのが「ふさわしい」

かを、あらんかぎりの角度から、説得的に主張する。そして、その主戦場は、

である。
私は今後の傾向として、こういったアルバイトのネット工作員と組み合わせて、

自民党の「ステマ」部隊に組み込まれていくと思っている。つまり、自民党電通は、そういった一見リベラルなイメージがあるが、その主張は、どちらかというと「保守的」な側面のある、「有識者」に

  • 大金

を払うわけである。そして、自民党が、そういった「有識者」に求める「役割」は、そういったアルバイトのネット工作員と一緒になって、さまざまな

行為をやってもらうこと、となる。自民党が求めているのは、なんとしてでも、自民党が「けっこう、国民のためにやってくれている」というイメージを行き渡らせて、なんとかして、自民党に選挙で投票してくれる人を増やすことである。そこで、「有識者」が、一言「何万円」で、買われる。効果的な発言をやってくれればくれるほど、そういった「有識者」には自民党からお金が渡ることになる。
さて。
大事なポイントは、こういった「傾向」は別に、日本だけではない、ということである。

政策もほとんど語らず、その場しのぎのポピュリストであると言われているドナルド・トランプの政治母体は、選挙対策本部のほとんどが、AFP出身者であることから、実は明確です。AFPは、「アメリカン・フォー・プロスペリティ」という草の根団体ですが、実際は違います。このAFPを事実上運営しているのは、全世界最大の非公開企業コーク一族(いちぞく)なのです。
コーク一族は、反ホワイトハウス、反ワシントン・システムを掲げるリバタリアンで、近年では、ティーパーティー運動の仕掛け人としても、名前が大きく挙がりました。コーク一族は非公開企業であるゆえ(兄弟で10兆円を超える資産を保有しています)、ウォール街との関係も大きくなく、反ウォール街的な意味合いも強く持っています。
そして、コーク一族は今までに何度もハッキリと「共和党を乗っ取る」と公言していました。そのコーク一族による「共和党乗っ取り計画」の神輿がドナルド・トランプだ、と言いたいところですが、事実はもう少し複雑です。
トランプ氏を担ぎだした、米国を裏で仕切る新勢力の正体 - まぐまぐニュース!

彼らの戦術は実に巧みで、最新のテクノロジーを駆使し、常に市場を分析しています。特に相手候補を打ち負かす広告投入手法は見事で、2014年の中間選挙では、AFPが資金投じた候補の95%を当選させました。現在のトランプは、AFP同様反ワシントン・システム、反ウォール街、反エスタブリッシュメントであり、それゆえ選対幹部にはエスタブリッシュメントの基盤であるアイビーリーグ出身者がひとりもいません。この点では、民主党から出馬しているサンダースと近いものがあります。これを日本に置き換えれば、東大法学部が作った霞が関システムに対して、トランプもサンダースも大きく反対の狼煙を上げていると言えるでしょう。
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おそらく、数年後の世界の「ネット言論空間」は、こういった

言説で覆われることになる、と思っています。あらゆる言論が、ネット工作員としてアルバイトで書いているステマ記事か、こういったネット工作員の親玉から高額なお金をもらって、ステマを行っている「有識者」によって、覆われることになるでしょう。
もちろん、ある意味において、今回のオバマ大統領のヒロシマでの演説も、そういった「マーケティング」によって構成された、一種の「ステマ」だと言ってもいいものだということになるでしょう。
ネット、怖いね...。