日本の憲法の必要十分条件

私は以前、このブログで改憲論について疑問を提示した。それは、なぜ改憲を「やろう」と言う人のレトリックが、

  • <これ>を改憲しよう!

という形にならないのか、を疑問視した。つまり、改憲派も実はよく分かっているわけである。別に、あえて、なにかを変え「なければならない」というものがあるわけではない、ということを(そういったものはすべて、法律改正で十分だ、ということを)。つまり、こと憲法に関して言うなら、今の憲法で、だれも

  • 困っていない

わけだ。自民党は結党以来、自主憲法と言ってはいるが、なぜか、「ここが困っている」ということを今だかつて言ったことはない。つまり、結党以来、そうなのだ。そりゃそうだろう。実際に今まで困ってきたなら、それまでに変えていたのだからw 困っていないから、今だに今のままになっている。今の憲法に従ってきた。この憲法に従って、「自民党たち」の政治を行ってきたし、実際に、それができた(できなかったと言うことは、先輩の業績を否定することであり、意味不明であろう)。ということは、実際は自民党は「護憲派」なのだ。
よく考えてみてほしい。
今、この日本を見てみて、

  • 憲法を変えなければ、実現できない<なにか>

を実現するために主張している憲法改正案が、一つとしてあるだろうか? よく聞いてみると、どれ一つとして、わざわざ憲法を変える必要がない、または、ほとんどその制度をいじる必要性のあることを言っていない、ということに気付くわけである。
ようするに、今の日本の憲法は、私たち日本国民の想像上の「必要十分条件」なのだ!
憲法を変えなくていいのだ!
注意して聞いてみてほしい。彼らが何を言っているのか、を。

この二つ以外の主張を、聞いたことがあるだろうか? どちらも、

ということに過ぎなく、まったく

  • 主体性がない

わけであるw だれかのせいにしているわけであるw ただし、例外がある。それが、いわゆる「立憲政治の否定」を目指している、日本会議のような連中である。

国民主権基本的人権、平和主義、これをなくさなければ本当の自主憲法ではないんですよ」長勢甚遠(第一次安倍内閣法務大臣)創生「日本」東京研修
「国民主権、基本的人権、平和主義(中略)この三つを無くさなければ本当の自主憲法にならないんですよ」 - Togetter

(でもこれって、普通に解釈したら、戦前の松岡洋右でしょう。国連を脱退します。また、戦前と同じように、世界から孤立して、国連と世界戦争をします、と宣言しているのと変わりませんよねw 今でさえ、イギリスがEUを脱退したら、イギリス経済が没落して、イギリスが小国になるのは避けられない。明日からの仕事をどうしよう、とか言っているのに、こんなことをだれが耳を貸すんでしょうかね...。)
まあ、ようするに、憲法不要論なんですよね。そして、それって、明治憲法においても存在していた。つまり、明治憲法は、どこかしら、矛盾を内包していた憲法であった。だから、そもそも、憲法とか立憲主義といった概念を受け入れていなかった当時の武士の伝統を生きていた連中の延長に考えていたような人たちにとっても、明治憲法が内包していた「矛盾」が、彼らの

考えの「余地」を残していた、ということなんだと思うんですよね。
例えば、教育勅語において、最後の最後が次のようになっている。

一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ(国に危機が迫ったなら国のため力を尽くし、それにより永遠の皇国を支えましょう)
教育ニ関スル勅語 - Wikipedia

しかし、これって、ようするに今議論になっている、「緊急事態条項」の言い換えなわけでしょう。ひとたび、総理大臣が「緊急事態」と宣言したら、今の憲法自体が「否定」される。しかし、そのように憲法に書いた時点で、「緊急事態」は始まりますよね(だって、「必要」だから追加した、と言っているんですからw)。というか、教育勅語の意味って、そういうことなわけでしょう。
国家が憲法を否定したということは、すべてが始まります。まず、民主主義が否定されます。民主主義という制度がなくなります。選挙がなくなります。エリートが、すべてを自己決定するようになります。次に、「貴族制」が復活します。国民は、

  • 身分

で分けられるようになります(実際に、今の自民党議員はほとんど、二世議員であるわけで、彼らにそれへの違和感はありませんw)。
ようするに、日本における改憲論において、

  • 憲法を捨てるか(アナーキズムを選択するか)?
  • 今の憲法のままでいいか(世界標準の立憲主義を堅持することで、今まで通り世界秩序=国連主義を肯定するか)?

の二択以外が問われたことは戦後、一度たりともない、ということなのだ! しかし、その場合、ある「矛盾」が表出されてくる。それが、天皇なわけで、戦後一貫して、歴代の天皇は「憲法を守る」と言ってきた。そういった日本の文脈において、常に右はある二つの態度に分裂してきた。

  • 天皇が言っている「憲法を守る」に自分も従う
  • 天皇が言っている「憲法を守る」という主張を「聞こえないふり」をして、憲法を変えようとする

そして、後者が日本会議というわけだが、なぜ日本会議がそうなのかと言えば、そもそも、彼らが「全共闘世代の残党」だからなわけであろう。つまり、彼らは一種の「左翼」だから、天皇をどうでもいいと思っている。ようするに、この憲法改正論で問われているのは、

  • 天皇を「どうでもいい」と思っているかどうか(天皇に興味がない) ... 憲法破壊肯定派
  • 天皇の主張には一定の傾聴の意味がある(天皇は今の歴史の文脈で少なくとも一定のリスペクトが必要だと思っている) ... 憲法破壊反対派

の二つだった、ということである...。