低投票率の戦略

今回の参議院選挙の結果を総括する意味で、少し文章を書いてみたい。
衆議院の任期が今年の12月なわけであるが、間違いなく、この選挙では自民の議員の数が減る(今回の民進党が減ったのと同じ理由で)。つまり、改憲派が3分の2を割ることは間違いない。だとするなら、もしも、安倍総理憲法改正を行いたいなら、今年中に国民投票を行う、ということになるわけであろう。
そう考えると、問題は、安倍総理憲法改正を行うのか、行わないのか、の二つの選択について、どこまで「真面目」なのか、が問われている、ということになるであろう。
今回の選挙は、二つの重要な動きがあった。まず一つは、投票率の低さにある。自民党電通を介して、マスコミを完全にコントロールして、選挙前に、徹底して参議院選挙にマスコミが言及することを阻止した。こうなると、国民は弱い。そもそも、そこまでの選挙で投票することの動機をもっていない国民が、たまたま忙しい中、テレビをつけて、ニュースのコメンテーターの言う今回の選挙のアジェンダに動機づけられて選挙に行くというのが一般であったと考えるなら、安倍さんは国民をどうやったら、選挙に行かせないか、と徹底して考えた、奇特な総理だった、ということになるであろう。
つまり、これが自民党錬金術で、国民が選挙に行かず、投票率が下がれば下がるほど、自民党は有利になる。つまり、組織票の一票の価値が上がるから。
もう一つが、野党連合の動きであるわけだが、これについては、そもそも小選挙区を選んで、自民党公明党という、かなり主張の違う政党が選挙協力をしている事実を考えるなら、これだけ投票率が下がっていることが予想される選挙戦では、野党は連合するしかなかったわけである。つまり、そうしなければ、まともな議席の数すら保てない。合理的に考えるなら、これ以外の選択肢はありえなかった。
しかし、そう考えるなら、やはり今回の民進党選挙協力は中途半端だった、と言わざるをえないであろう。確かに一人区はいい闘いをしたかもしれない。では、それ以外の選挙協力は? 明らかに、今回の野党連合は「お試し」でしかなかった。つまり、次の衆議院選挙は本気で、選挙協力が求められることになる、というわけである。
安倍政権は、直近の4回の国政選挙で勝利しているわけで、もはや、驚くべき実力だと言わざるをえない。ではなぜ、ここまでの実力なのか、ということでは、間違いなく、金融緩和政策の推進がある。
つまり、重要なポイントは、「雇用」だと思っている。言うまでもなく、民進党労働組合の推薦する政党であり、自民党はどちらかというと「経営者側」だということになる。ところが、金融緩和政策は、アベノミクスが原因かどうかは知らないが、雇用状況の改善をもたらす。とにかく、大卒の採用が以前より改善されていると理解されるなら、「じゃあ、彼らに任せて、様子を見てみよう」となるのは必然であって、そういう意味では間違いなく、自民党民進党を先んじて、

  • 雇用政策

のイニシアチブを握ってしまっている。
(そういう意味では、アメリカのトランプは、日本の安倍政権を参考にしているのかもしれない。トランプ自身はもともと民主党の人で、労働者に対するリップサービスを重視しているわけであり、そういう意味では、安倍さんもトランプも、

  • 経営者にも労働者にも「サービス」する

独特の「ファシスト」だと言えるのではないだろうか。)
しかし、である。
私は基本的に、この自民党=経営者、民進党労働組合、の関係で議論は続くと思っている。つまり、いずれ、自民党は「経営者が労働者の給料を思うほど上げない」という問題に対して、及び腰にあると考えられる。そうした場合に、民進党側の「主張」が価値をもってくる。それは、しょせんは自民党は経営者の政党だから、である。
今、一見すると、安倍首相は「なんでもできる」ように世の中から解釈されている。言わば、景気の「(日本的な意味での)神様」のような、崇められ方をしている。しかし、経営者も労働者もを「満足」させるような立場はありえない。いずれ、その無理がたたってくる。
この前も書いたが、今言われている「改憲」論は、そもそも、改憲と言っている人たち自身が、「困っていない」というところが特徴であった。では、なぜ改憲なのか? それは、むしろ、自民党の「アイデンティティ」に関わっていた。
自民党は、一度、民主党が政権をとったときに、野党に下野した。その関係で、「自分たちとは何者なのか」に答えなければならなくなった。
しかし、である。
そもそも、自民党が結党以来、改憲を党是としてきた、というのは、終戦直後における、占領軍が実際に問題があったから、なわけであろう。つまり、そこにおいて、改憲を主張することには当時は意味があった。しかし、今ここに至っては、まったく、状況が変わっている。すでに、占領軍もいないわけで、わざわざ改憲を主張する意味も分からなくなっている。
つまり、とっくの昔に自民党の「アイデンティティ」はなくなっている。だからこそ、安倍自民党が野党に下野したとき、それをでっちあげなければならなかった。そうしなければ、自分たちを鼓舞できなかった。
私は今回の憲法論議をあまり、重要視していない。それは、

  • もしも、安倍政権が、戦前回帰のアナクロ憲法改正を提起してきたら、国家は喧喧諤諤の議論となり、この前の安保法制ではすまない、連日の国会前デモとなり、とても「経済優先」の政策をやってられなくなり、日本の経済の停滞を結果すると共に、憲法改正の動きを経済界が排除にかかる。
  • もしも、安倍政権が、どうでもいいような所をどうでもいいように変えようとするなら、だれも興味をもたず、だれもなんの関心ももたない間に、変わったか変わらなかったかをだれも興味をもたない間に結果だけがでて、そのまま忘れられていく。

となると思っているからで、どちらであろうとも、この「混乱」と共に、安倍首相の「発言力」が、各界で低下していき、国民はそんなことよりも、景気の動向に注意を払うようになっていき、それと共に、だれも安倍首相を真面目に相手にしなくなっていく。
大事なポイントは景気だ。景気の動向が、それ以降も自民党の磐石な基盤となるか、反発として野党に味方していくか。そういう意味では、自民党憲法改正なんていう「時間の無駄」をやっていられるほど、余裕はない、というわけである...。
(今後の予想ということでは、いわゆる「民進党自民党」である、野田元首相や前原や細野といった連中が、これまで以上に、「自民党の応援」を、民進党の中で行い始めるのではないか、と思っている。「おおさか維新」が実質的に、安倍ちゃん応援団であったことは、今では周知の事実であるが、同じような「振舞い」を、野田や前原や細野が、民進党内から行っていくことになっていくであろうが、彼らにしても、おおさか維新にしても、しょせんは「ミニ自民党」でしかないと受け取られているわけで、あまり大きな存在感を今後の日本の政治で示していけるとは思えない、ということになるであろうか...。)