僕と似た君

前期のアニメで一世を風靡したのが「けもフレ」だったわけだが、あのアニメのなんとも座り心地の悪い感じを与えたのが、エンディングの「みゆはん」というシンガーソングライターの「ぼくのフレンド」という曲であった。
あのエンディングは、明らかに人類の「滅び」の後の世界を示唆するような映像であった。廃墟となった遊園地が延々と描かれているだけの映像をバックにして、この「ぼくのフレンド」という曲が流れる。このなんとも言えないシュールなシチュエーションが、作品の妙にハイテンションなストーリーと平行して、作品を妙な雰囲気のまま、最終回まで進んだ。
視聴者は明らかに、

  • 人類の滅び

を意識していた。つまり、この「問題」に対して作者側はなんらかの「答え」を用意するのではないか、と待ち構えた。それはどちらかというと「悲劇」についてであった。今までも多くのアニメはなんらかの「悲劇」を描いてきた。アニメ「コードギアス」では、主人公の少年と幼なじみのヒロインはなんの「理由」もなく、どうでもいい鬼畜に殺され、主人公は

  • 成長

する。それがどんなに「滑稽」な結末であったとしても、馬鹿馬鹿しいと思ったしても。アニメ「戦う司書」のノロティも、田舎の片隅で、ほんとにどうでもいいような小物の悪人に殺される。それがどんなに「くだたない」「どうでもいい」理由によって亡くなるとしても、作品は一種の

  • 成長

として描かれる。しかしそれは一体、なんの「成長」なのか? 人類の滅亡とは、基本はこれと同じ構造である。人類は「滅亡」する。しかしそれは、なぜなのか? 人類が滅亡することには、なにか「意味」があるのだろうか?
ところが作品は、そういった「謎」については、どちらかというとオブラートに包んだまま、終焉を迎えた印象が強い。少なくともそれは、視聴者が「予想」していたような、

  • 人類の滅び

についての「答え」を用意するものではなかった。けもフレの最終回は感動的なストーリーとなっている。今までずっと一緒に旅をしてきたサーバルキャットのサーバルちゃんは、かばんちゃんが自分を助けるために、巨大セルリアンに食べられてしまった後も、救出をあきらめない。巨大セルリアンの足にしがみつき、なんとかして、かばんちゃんを助けようとする。
すると、作品は急展開をする。どう考えても、体格差で勝てるはずがない戦いに挑んでいるサーバルちゃんに対し、彼女と縁のあった、さまざまなフレンズたちか彼女を助けるために集まってくる。
しかし、この展開は、どこかこのアニメのエンディングの「みゆはん」の「ぼくのフレンド」の歌詞の内容を意識させる。

合縁奇縁 一期一会
袖すり合うも多生の縁
この世の奇跡ギュッとつめて
君と出会えたんだ
みゆはん「ぼくのフレンド」)

この作品はかばんちゃんがサーバルちゃんと出会って、二人で旅を始めるところから始まる。しかし、なぜ二人だったのか? それをこの歌詞では一方で「奇跡」と呼びながら、「多生の縁」と言う。
二人が出会ったことは、ただの「偶然」なのだろうか?
そうなのかもしれない。そうでないのかもしれない。もしかしたら、なんらかの「多生の縁」があったのかもしれない。それは、そこにおいて「僕と似た君」を見出しているところから分かる。

かけがえない
僕と似た君は
1人でも大丈夫だからただ前を見て
広がる道を走るんだ
みゆはん「ぼくのフレンド」)

この歌詞は、別れの歌である。それは、ケモふれの最終回が、かばんちゃんとサーバルちゃんの「別れ」を本当は示唆していたことと関係がある。人類の滅びは、ある種の「別れ」だ。おそらく人類は、その「滅亡」と一緒に、なにかを残していく。

  • 彼ら

が何者なのかは分からない。しかし、一つだけはっきりしていることは、彼らは「僕と似た君」だということだ。

「そういやさ、なんで突然髪切ろうと思ったん?」
残った髪の毛をほうきで掃きながら、梓はかがんだままの芹菜に問いかけた。彼女は顔を上げると、少し困ったようにそのまなじりを下げた。
「変わりたくて」
「イメチェン?」
「ま、そういうこと」
肩をすくめ、芹菜はその口端に自嘲するような笑みを乗せた。真っ白なカッターシャツのボタンはいちまん上まできっちり留められていて、なんだか息苦しそうだった。
「なんていうかさ、佐々木の隣に並んだときに、恥ずかしくないようにしないとって思って」
うっすらと朱色に色づく彼女の耳は、すいぶんと柔らかそうだった。にやつく口元を抑えようとして、だけど結局梓はそれに失敗した。ふふ、と吐息交じりに笑う梓に、芹菜は照れたようにそっぽを向いた。

自分がクラスで1人ぼっちだったときに、最初に手をさしのべてくれた梓に、芹菜は自分が変わろうとする。梓に「ふさわしい」自分になろうとする。

  • 隣に並んだときに、恥ずかしくないようにしないとって思って

これが、「僕と似た君」なのだ...。