保守主義と人工受精

現代日本の最大のアポリアは、「女性の労働環境」だろう。もちろんそれは、男性に対しても同じわけだが、こと、女性に対してのそれは、まったく

  • 対策が行われてこなかった

ことに、その本質がある。というのは、そもそも女性は結婚をして、子どもを身籠れば、その間の労働条件は限定的なものにならざるをえないからだ。一方で、男女の労働の平等をうたいながら、他方で、女性には必然的な制約がある、というのは、そこから当然の結論として、

  • 女性に対しては、なんらかの「補助」が行われなければならない

という議論になるはずだ。ところが、日本は戦後、この議論を避けて来た。その理由はなんなのかと考えたとき、最近亡くなった、石原慎太郎を始めとして、日本の元祖ネトウヨ論客たちが、

  • 昔ながらの家族観

を、一種の「美徳」として、男女差別を正当化してきたし、それと社会が戦ってこなかった、という事実がある。なぜ、石原慎太郎が何年も東京都知事ができたのかには、大手マスコミが彼を批判しなかったから、という理由がある。あれだけの失言を繰り返してきた彼を、誰も止められなかっただけでなく、そのまま、テレビが連日のように画面に写し続けたことに、その悪質さがあったわけだ。
ある社会的な課題が話題になったとき、その改革が、さまざまな利害関係者の利益を損なうことが分かっているとき、

が、さっそうと登場する。そして、彼らは言うわけだ。「今まで通りにすべきだ」と。その意味は、

  • なにかを変えたら、社会が壊れてしまう(ことが怖い)

と。
(このことの裏のメッセージは

  • なにかを変えたら、俺の利益が減ってしまう(ことが怖い)

なのだがw。)
こうして、一切の改革は頓挫する。そして、上記の女性差別も是正されてこなかった。
しかし、もしもそうなら、面倒くさくなった女性たちは、結婚するやいなや、寿退社なる言葉で、会社を辞めるわけだ。そして、雇う経営者たちも、女性を「長く続かない労働者」と想定して、さまざまな、雇用条件での男女差別を正当化するようになる。
こういった問題は現場での自己解決を求める性質のものではなく、

  • 国家の法的な保障

によって、コントロールしない限り、永遠に解決しない。つまり、国家が

  • 強制

しなければ、「正義」は実現できないのだ。
この日本社会そのものにとりついている病巣に直面して、大人になった女性たちが考えることは二つだろう:

  • あらゆる企業は、男性だけにするか、女性だけにするべきだ
  • 男性のいない女性だけの社会を作るべきだ

そうすることで、その場における「局地的な条件平等」を達成し、その範囲での地域間の平等な配分がどういうものかを国家に考えさせればいい、という案だ。
しかし、こういった、ある種の「極論」が出てくるのも、国会での議論が全然進まない、ということへの、社会変革の「あきらめ」に関係して現れてくるわけで、これが馬鹿馬鹿しいと思うなら、もう少しまともに、この問題に取り組め、と言われているのと等価なわけだ。
そして、この話はそもそも女性だけにとどまるわけもなくて、そのことは、東京都の異常なまでの出生率の低さからも分かる。ようするに、東京の貧しい労働者は、全然、子どもを産んでいない。つまり、東京の貧しい人たちは、

  • 子どもを産んで育てられる環境にない

ということを端的に示している。田舎ならまだ、おじいちゃん、おばあちゃんがいて、子育てを手伝ってくれるなどのアドバンテージがあるが、都会では、なにかあったときに、代わりに子育てをやってくれる、ベビーシッターを探すことが著しく難しい。そもそも、毎日、仕事が忙しいんだから、自然と「あきらめ」ていくのだ(または、仕事そのものを辞めるかの二択となる)。
こういった方向を考えてくると、そもそも、子育てを親が行う、という人間の今までの慣習が難しくなってきたんじゃないのか、といった疑いまでわいてくる。
その一つとして、以下のようなニュースが最近あった:

news.yahoo.co.jp

そもそも出産は、女性の体への負荷が非常に高い。しかも、人間の赤ん坊はどんどん頭部が大きくなっていて、出産時の負担が大きくなっている。そう考えると、こういった形で、女性の母体を介することなく産まれる子どもが多くなっていくのかもしれない。
もっと言えば、子育て自体も母親一人が、誰もいない家の中で孤独に行う行為ではなくなり、基本的に赤ん坊は、専門の子育て施設で子どもの集団で育っていく形が主流になっていくのかもしれない。
いずれにしろ、保守主義者が「伝統」にこだわり、一切の女性への労働環境への強制的な優先的補助を行わない限り、この矛盾は続くわけで、そうであるなら、

  • それとは、まったく違った側面からのブレークスルー

がない限り、日本社会はジリ貧になり、滅びていくか、

  • いつまでも女性は「奴隷」と変わらない待遇に忍従し続ける

ディストピア社会が変わらない、人間社会の暗黒時代が、これからも続く、という暗い未来しか、うかばないわけだ...。