ウクライナ戦争に対するアメリカの「責任」

今回のウクライナ戦争を見ていて誰もが思う疑問は、

  • アメリカが本気を出せば、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を止められるのに、なぜそれをやらないのか?

ではないだろうか。
なぜか、このことを言う人がいない。
今、世界の超大国アメリカだ。その一番分かりやすい例が北朝鮮で、彼らがあんなに何度もミサイル実験をやっているのは、

  • アメリカにミサイルを打ち込むため

なわけだ。もしもあれが日本向けなら、そもそもはるか昔に、「日本まで届くミサイル」の開発なんてできていたわけで、今だにバージョンアップを行う必要すらないわけだ。
北朝鮮は、冷戦が始まったときから「ずっと」アメリカのことしか見ていない。ずっと、アメリカだけが眼中にある。ずっと、アメリカから「自国に有利な条件」を引き出すための取引を行いたく、ずっと、考え行動している。
そして、これについては、中国だろうが、ロシアだろうが変わらないわけだ。ロシアは、ずっと、アメリカのことしか考えていない。彼らの交渉相手はずっと、アメリカ一国しか見えていない。ただただ、アメリカからさえ、自分たちに有利な条件を引き出せれば、あとはなんとでもなる、と考えている。まあ、実際、日本の例を考えればそれは十分すぎるぐらいにw、分かるわけだ。
今回のウクライナ戦争が始まって、最初の国連決議で、南アフリカが棄権した。その理由は、「もっと話し合うべきだ」だった。そう考えてみると、この一連の過程で明らかに

  • アメリカがロシアと「話し合う」ことを避け続けている

という態度が目立つわけだ。そして、これと対照的なのが、フランスのマクロンだろう。彼は、何度も何度もプーチンと対談している。これに比べて、バイデンが、まったくといっていいほど、会話をしようとしないことは、際だっている。
しかし、日本の知識人たちも世論も、これに対して、バイデンを疑う発言は一切出ていない。代わりに、そのバイデンの態度を「正しい」とか「正義だ」とか、むしろ、「会話をしないことの方こそ正義だ」みたいな礼賛の仕方が見られることに、今の状況の特徴がある。
彼らに言わせると、

  • ロシアが侵略したことは百パーセント悪いのだから、ロシアが撤退して、「現状回復」するまでは、彼らは話相手に値しない。だから、一切に関係をもたない。

ということになる。しかし、これは変だ。なぜなら、そんなことを言ったら、なぜウクライナはロシアと停戦交渉をしているのかが分からなくなるからだ。
なぜアメリカがロシアとの交渉の場に出てこないのか? それは一つには、ロシアがウクライナを軍事侵攻した「理屈の幾つか」には、間違いなく、

  • マイダン革命以降の、ウクライナの親欧米政権がウクライナ内で行ってきた「行為」「政策」に対する<歴史的な評価>が、そこでの議論の主題とならざるをえないから

というのがあるわけだろう。言うまでもなく、親欧米政権以降のウクライナアメリカの「傀儡政権」なわけで、そこでの行為や政策は、全て「アメリカが承認した」ものであることは、日本の全ての政策が、アメリカの合意がなければ変えられない(それは、3・11後の民主党政権が、アメリカの拒否にあって、即時脱原発をあきらめた経緯と同一である)ことから明らかなわけだ。
そうであるなら、この戦争を一瞬でも早く終わらせる最も簡単な方法は、

ことだ、ということが分かるだろう。ところが、アメリカはそれをやらない。もちろん、アメリカはなにもやっていないわけではない。ある程度の経済制裁ウクライナへのある程度の武器の供与はやっている。しかし、そのどちらにしても

  • 中途半端

で、今に至るまで、ロシアの行為を止めるまでの力に至っていない。では、アメリカには、それを実現するまでの力がないのか、といえば、そんなことはない。
アメリカがそこまでの支援をやっていない理由として挙げているのがWW3の阻止であるが、ちゃんちゃらおかしい。もちろん、大規模な核戦争になることは恐しいことを否定する人はいないだろう。しかし、だからといって、NATOが今に至るまで、ほぼ何もやっていないのと変わらない状態にあることは、まったく説明になっていないわけだ。そもそも、NATOは、旧ソ連に対抗する軍事同盟だ。であるなら、ロシアの軍事行動に対して、

  • まったく効果的な行動を行えていない

ということは、今まで、なにをやっていたのか、という話になるわけであろう。お前たちは、ずっと、「こういう事態になったときにどうするのか」だけを考えて、準備をしてきたんじゃないのか? それなのに、いざこういう事態になって、なにもできていないということは、ようするに

  • 今に至るまで、何も考えていませんでした

と告白しているのと変わらないわけであろう。
明らかにおかしいと思わないか?
なぜ、NATOは軍事的な対抗策を実行できないか? それは、今まで考えていなかったということでなくて、単純に

  • アメリカが、この戦争が始まったときから、「アメリカは軍事介入を行わない」ということを勝手に一国で決めていた

からにすぎない。ようするに、アメリカがこう言ったから、ロシアは今、ああいった行動をとっているわけである。アメリカが動かないなら、その他のNATOの国々のどこも動かないだろう。なぜなら、もしも独断で動けば、格好のロシアの標的となるだけだからだ。
アメリカが行動するから、イラク戦争のときのように、NATO加盟国全体の連合軍としての集団としての軍事行動が可能になる。
つまり、ここから分かることは、

と言うしかないわけである。
アメリカは、ニュースを見れば、いつもロシアを「怒って」いる。しかし、本気で怒っているのかは疑わしい。なぜなら、本気でアメリカがロシアを止めようと思えば、いくらでも手段があるから。しかし、アメリカはその手段を使わない。
まず、一つの方法は、ロシアのオルガルヒ「全員」の海外の資産を凍結すればいい。これをアメリカはやらない。もちろん、そう言うと、「その資産の把握が難しいのだから、できなくて当たり前だ」と言う人が現れるだろう。しかし、それは本末転倒なわけである。なぜ把握されていないのかは、

  • 富裕階層が、自分たちの資産を管理されるのを嫌がっているから

に過ぎない。つまり、アメリカがそれをやらないのは、アメリカ国内の富裕階層の「利益」を抵触する可能性があるから、そういった「一般的なルール」を作りたくない、と言っているのと変わないわけだ。
このことは、なぜ今に至るまで、ロシアが常任理事国で、拒否権が与えられているのか、と同じ理由なわけだ。もしも、今回のロシアの蛮行を止める国連のルール改正をするとすると、必然的に

わけで、そもそも、今回のロシアのウクライナ侵攻と、ほとんど変わらない理由で、世界中に戦争をしかけ続けてきたアメリカの手足を縛ることになるから、アメリカはやりたくない。
アメリカは今、「絶対的な正義の側」にいる。もしもそのアメリカが、ロシアとの停戦交渉の場にひきずり出されて、ロシアから

  • マイダン革命以降のウクライナ国内の内戦において、アメリカが介入して、さまざまに行わせた一つ一つの行為が「正しかったのか」どうかを追求されたとき、それを全世界にテレビ中継されたとき、それに対するアメリカの「態度」が、まったく説得的なものでなかったとき、今度は世界中からアメリカが非難される側になる

ことを怖がっている、といったところが実態なんだろう、と思っているわけである。
つまり、アメリカにとって、そんなリスクを冒すよりも、今の状態のまま、ロシアがウクライナを攻撃し続けている間に、アメリカはいくらでも、ロシアの体力を奪う経済制裁を世界中に指示して行わせて、ジャベリンなどの武器をウクライナに提供することで、アメリカ国内の軍需産業を肥え太らせて、EUにロシアの天然ガスを買わせないことで、アメリカ国内のLNGを高額でEUに買わせることの方が

わけだw アメリカは、まったく戦争を終えさせたくない。なんとかして、停戦になるのを邪魔したい。さまざまな理由をつけて、ウクライナに停戦をのませないように圧力をかけ続ける。
もう一度、よく考えてみてほしい。アメリカが本気を出せば、一瞬で戦争は終わる。そうすれば、今この一瞬から、停戦をしないために死ぬことになる一切のウクライナの一般市民が、

  • 一人として死なないようにできる

わけである。やれるのにやらないアメリカをどう思うか? しかも、アメリカがやらないのは正義にためじゃない。完全に、アメリカの国益のためにすぎない。アメリカが徹底した自国の軍隊の全面的な投入によっても、今のウクライナに入ってきているロシア兵をウクライナから追い出すことは可能だし、逆に、今から本気になって、アメリカがロシアと「交渉」を行うことによっても、キューバ危機が回避されたように、ロシアとの間に、合理的な解決が見出されるだろう。大事なポイントは、どちらにしても、「やればこの戦争は終わる」ことだけは間違いないのに、アメリカは、どちらもやろうとしない、というところにポイントがあるわけで、ということは、

  • アメリカにとって、そのどちらをもやらないことに、アメリカにとっての「国益」があるから

と言うしかない理不尽さがある、というわけである...。

追記:
今さら言うまでもないが、アメリカはバイデン政権が誕生した直後、アフガンから撤退した。このことと、今アメリカが、ウクライナに軍事介入をしていないことは密接に繋がっている。アメリカがウクライナに軍事介入をしないことには、まったく合理的な理由がないのだw バイデンにとって、もしもウクライナに軍事介入をしたら、「なんでアフガンは撤退したんだ」と、その辻褄の合わなさを批判されることになるだろう。だから、彼にとって、なんとしても、ウクライナに介入しないことを正当化しなければならない。こう考えるなら、この戦争を終わらせる一番簡単な方法は、大統領選挙でバイデンが負けて、別の人に代わればいい、ということになるのかもしれない...。