リコリコ第9話

アニメ「リコリス・リコイル」は、巷では、大ヒットをしていて、注目が集まっている、とされている。それは、海外でも同じで、この注目が、ずっと継続している、という側面は注目に値する。
しかし、思うのは、ここでの「人気」は、いわゆる「一般の人たち」まで広まっている、ということを意味しているわけではない。あくまで、アニメシリーズが開始すれば、ひととおり見るという習慣を続けている人の間で、今期の作品の中で注目されている、ということであって、それはこれが「オリジナル・アニメ」と呼ばれている形態となっていることとも関係しているのだろう。
その中で、今回の第9話は、一つのターニング・ポイントとなっている、とは言えるだろう。それは、主人公の千束(ちさと)が、どういう存在であったのかが明かされた、という意味で。
まず、千束の心臓が「人工心臓」であることは数話前で分かっていた。そして、その人工心臓の寿命が20歳までもたないものだった、ことが今回、明かされた。さらに、前回の最後で、千束の心臓に電極が刺されて、電流を流されたわけだが、それによって、外部との接続ができなくなったことで、千束の寿命は長くて、残り2ヶ月になったことが今回、明かされた。
オリジナル・アニメとして、これだけ毎回毎回、考察厨によって分析されていたのにも関わらず、このような展開を予想していた人はいなかったんじゃないか。この「事実」の判明は、

  • なぜ千束は、常に底抜けの「明るさ」だったのか?

を説明する内容だったわけだ。千束は明るい。それは、彼女の寿命が限られていた、ことと関係していた。どうせ長く生きられないから、なにごとにも挫折することなく、前向きになれた。つまり、千束の

  • ギャグ

の存在証明となっていた、というわけだ。このことは、これまで、この作品を一種のギャクアニメとして見ていた人たちを憂鬱にする。千束と、たきなの、

  • ギャク・アニメ

という定義は、実際にそういう「消費」のされ方において、これだけの「人気」を獲得してきた、という側面があっただけに、大きい事実なわけである。
しかし、である。
そもそも、この作品を振り返ってみると、そんな生易しい作品じゃなかった、という指摘は正しいわけである。
まず、そもそも、DAの女の子たちが「何者」なのかは、そんな笑って見ていられるような存在じゃなかった。まず、DAの女の子たちは、全員、孤児であり、

  • 戸籍がない

わけだ。その意味は、国家が社会から「隠している」というわけで、その理由は彼女たちを「鉄砲玉」にして、

  • この社会の秩序を維持する

ということであって、つまりは、その「目的」のために、彼女たちの命を犠牲にしている、ということを意味している。
DAの女の子たちの使命は、

  • 潜在的な「犯罪者予備軍」を、彼らが実際の犯行におよぶ前に「殺す」

というところにある。しかし、言うまでもなく、これは

  • 違法

である。つまり、違法だから、彼女たち、戸籍のない存在にやらせているのだw ここには、

  • この社会を維持するには、そういった「違法」な「殺人」を国家が行わなければ、維持できない

という「認識」がある。
こういった作品の一つとして、よく知られているものに、アニメ「サイコパス」がある。ここでは、そも「犯罪者予備軍」は

  • 数値

で計算される形で、その「殺人」を「正当化」していた。対して、リコリコの世界では、より、人々の「個人情報」が、情報化社会の進展によって、丸裸にされている、というのが前提になっている。そういった世界において、国家は各個人の個人情報を通時的に分析することによって、

  • 間違いなく、こいつは数日のうちに、大量殺人をすることが分かっている

ということが見出されるようになる。そうした場合に、今の法律の建前では、その犯罪者予備軍が、実際に犯罪を実行するまで、そいつを取り締ることができない。ここにパラドックスがある。

  • もしもその犯罪者予備軍が、実際に実行すれば、「大量の死者が出る」ことが分かっている。だとするなら、なぜそいつを事前に殺すことが許されないのか?

これは、倫理的な命題というより、「功利主義的な命題」と考えた方が分かりやすいだろう。
しかし、いずれにしろ、現代の法体系には、これを解決する手段がない。そこで、DAの女の子たちが使われる。
第9話で明らかになった最も重要な事実は、

  • DAの女の子たちの「寿命」は、せいぜい、20歳まで

ということだ。つまり、それまでに、「殉職」する、と言っているのだw 言うまでもない。上記の、犯罪者予備軍を殺すDAの女の子たちは、そもそも、

  • 多くの「敵」を作りやすい

わけであり、このアニメシリーズの中でも、すでに、4人が、真島とその部下によって、

  • 集団リンチ

にあい、なぶり殺しにあっている。つまり、DAの女の子たちは寿命が短かい。
こうやって見てくると、どこか、リコリスと「統一協会」との類似性が見えてくるのかもしれないw DAの女の子たちは、戸籍がないことから分かるように、まったく、実社会から隔離されて育てられる。そのため、彼女たちは、実社会がどうなっているのかを知らない。彼女たちは、なにも知らないまま、ただただ、DAの「メンバー」となり、数々の重大事件を解決することだけを誇りに思っている。たきなが、あれだけ、DAに帰りたがっていた理由はここにある。
同じように、統一協会は、信者に「合同結婚式」を行い、大量の献金をさせることを、

  • それ以外の生きる道がないかのように

マインドコントロールをしていって、型にはめていく。
対して、千束はどうなのだろうか? 千束は、この作品において、特異な存在として描かれている。つまり、彼女は「人を殺さない」。常に、ゴム弾を使って、致命傷にならない形でしか、敵を攻撃しない。彼女は、そういう意味で、

  • 何と戦っている

のだろうか? 彼女は、潜在的にDAという組織を批判しているのだろうか? 彼女の実存は、そういう意味では、今に至るまで、明かされていない...。