そよvs愛音

アニメ「バンドリMyGO」第10話は、この作品のクライマックスと言っていいような一話だ。この、急展開の、なにが起きているのか分からなくなるくらいに、話が早く進む展開で、何が描かれているのかを丁寧に見ていくと、大まかには燈ちゃんの「気づき」を中心線として進められているのが分かる。
第9話の最後で、完全にバラバラになってしまったバンドのメンバーは、それぞれでバンドと離れた日常に返っていく。そんな中で、まったく以前と同じく、唯一

  • 立ち直れていない

のが燈ちゃんだった。彼女は、ずっと、バンドが壊れてしまったことに傷ついていた。そして、その事実を目の前にして、なにもできずに、もがいていた。
ある日、いつものように、(池袋のサンシャインの?)プラネタリウムを見ていると、そこに、sumimiの初華に出会う。燈にとって初華は「知らない人」だったが、初華は彼女が祥子がやっていたバンドのメンバーだ、ということにすぐに気付く。
どうでもいい世間話をしていたとき、燈が落としたノートの切れ端を拾った初華は、そこに

  • 詩(うた)

が書かれていることに気付く。すると、初華は、「言葉では伝えられないことでも、詩(うた)であれば伝わる気がする」という形で彼女に次のステップに踏み出すことを促す。
初華とのこの出会いをきっかけにして、燈は「前に進み始める」。詩(うた)をさらに夜、書き進める。学校では、愛音ちゃんに再度、一緒にバンドをやってほしいとお願いするが断られる。燈は、一人でライブをやることを決意し、そこでずっと書いてきた、詩(うた)の朗読を行うと、そこに現れたのが、楽奈だった。
二人はライブを続けていくわけだが、楽奈は立希ちゃんをバンドに誘う。そして、立希ちゃんが燈ちゃんに今までのことを謝っているところに現れたのが、睦ちゃんだった。たった一言、燈ちゃんに「そよは分からなくなっている」と言って立ち去った睦。しかし、燈ちゃんはすぐにそれが、

  • そよちゃんは<迷子>なんだ

ということに彼女は「気付く」。
学校で、燈ちゃんは愛音ちゃんに捕みかかって、バンドに戻ってほしい、

  • 愛音ちゃんが<必要>なんだ

と訴えかける。自分は見栄でバンドを始めたんだと言う愛音ちゃんに燈ちゃんは、優しく「一緒に迷子になってほしい」と言うと、愛音ちゃんは空を見上げて、この運命を受け入れる。
放課後、そよさんを待ち伏せていた愛音ちゃんは、話を聞いてくれるまで、そよさんの後を追っていく。観念したそよさんは、自分の家に愛音ちゃんを招き入れて、紅茶をごちそうする。そこで、バンドを一緒に続けようと言う愛音ちゃんに、そよさんは「だったら、バンドを終わらせてやる」と啖呵を切る。
そよさんを除いて全員がそろったバンドメンバーはライブのステージで開始を待っていると、燈は会場にそよさんがいることに気づく。すると、ステージを降りて、そよのいるところまで、燈は降りていって、両手をひっぱって、ステージまで彼女を上げてしまう。彼女にベースをもたせると、全員は演奏を始める。
観客を後ろ向きにして、燈はひたすら、そよの方を見て、自分の思いを歌いつづける。燈は、睦の言葉から、そよは自分たちと同じ

  • 迷子

だということを知る。そんなそよに、燈はひたすら、

  • 自分と一緒にいてほしい。自分から離れないでほしい。

と、こんこんと、切実に歌い続ける。しかし、その内容は、どこか、幼い頃に両親が離婚して、母親と二人暮らしになった、そよが家の中で、家族に求めていたものなんじゃないのかと思わせるものがある。おそらく、長崎そよは、今も、父親と母親の

  • 愛情

を求めている。燈の歌詞は、どこか、そよが父親や母親に「言ってほしかった」言葉を思わせるものになっている。そよは、父親であり、母親に

  • いつまでも、自分と「一緒」にいてほしい

と言ってほしかったのだ。だから、「そう言ってくれた」燈の言葉に、涙が止まらなくなる。もしかしたら、燈はそよにとっての、父親や母親であり、このバンドが、そよにとっての「家族」なのかもしれない...。

追記∶
作品の前半で、燈は愛音に「一生バンドをやってくれる?」と問いかける場面がある。そこでは、CRYCHICの解散があったから、ついそう言ったのだろうと解釈されたわけだが、ここでは、長崎そよにとっての、父親と母親が一生自分といてほしいという、切実な願いに、その言葉がかかっている、ということがわかる。