ハリルの「呪い」

アジア杯でのイラン戦の後に守田選手がインタビューで語った内容は、普通に考えれば、驚くべきことだろう。
チームが「ピンチ」の場合に、なにかをしなきゃならないと、選手も監督も、会場で見ている人も、テレビで見ている人も、だれもが問題だと思っているのに、まず、監督がなにも指示をしない。監督が選手に指示をしない状況を考えたとき、二つのケースが考えられる。

  • 監督は問題だと思っていないので、今まで通りにプレーしろ。
  • 監督は問題だと思っているが、それは選手が話し合って解決しろ。

守田選手はこの二つで悩んだわけであるw もしも後者であれば、普通に考えれば、板倉選手が狙われていたんだから、守田選手なり遠藤選手なりが最終ラインに入ってきて、3バックを形成すべきだろう。しかし、おそらくそういった「練習」は、

  • 守備的

に守りきるケースを想定してしか練習してきていない。今、1−1の同点でチームを守備的に変えていいのかどうかがよく分からない。守備的にするということは、同点で引き分けを狙うことだ。しかし、直前での選手交代の意図は明らかに、「攻めろ」だろう。そこから、監督のメッセージを読み解くなら、監督は得点を狙ってほしいと言っているように聞こえる。
つまり、ベンチの指示が「ダブルバインド」になっているように読み取れるわけである。
しかし、ここまで書いてきて、多くの人は、「こんなこと」で悩んでいること自体が不思議に思わないだろうか? なぜ、こんなことになっているのか?
つまり、森保ジャパンは、歴史的な経緯があって「普通のチームじゃない」のだ!
まず、この問題は、ハリルジャパンの時から始まる。このときは、指示系統は明確だった。つまり、監督が全てを決めるという意味で、「普通のチーム」だった。しかし、そのとき、なにが起きたか? 本田圭佑を中心として、選手が

  • ボイコット

をしたわけ。本田はもしハリルがこのまま監督を続けたら、自分がチームから外されることを予測して、「そもそも監督の今の戦い方は間違っている」という主張を展開した。こんな守備的な戦い方は「おかしい」と。そして、その主張で何人かの代表の主要メンバーを説得して、田嶋またはスポンサーに直談判した。すると、田嶋またはスポンサー側が「自社のイメージ選手が活躍できないのは困る」となって、監督の解任を求めてきた。
そして、田嶋はハリルを降ろした。その結果、田嶋の手下の西野が直前で監督になって、W杯を戦った。そして、森保はこのとき、コーチとして参加していた人で、西野が大会が終わって辞めて以降、ずっと監督をやっている。ハリルを選手やスポンサーの意向で解任したということは、

  • ハリル・タイプの監督は二度と日本サッカーの監督をやってくれない

ということを意味する。しかし、世界中を探しても、ハリル・タイプじゃない監督なんて存在しない。いたとしても、アフリカの未開地域のような、土着のムラの掟で人事をやっているような、ガラパゴスな地域しかない。グローバルな、世界の有名監督は全員、ハリル・タイプだ。
西野や森保が与えられたミッションは、

  • 選手と田嶋とスポンサー「優先」

で、監督業は「二の次」でやってくれる監督ということだ。これによって、森保はよくわからないミッションを与えられている人と受けとめられているわけである。
まず、森保は自分を「調整型」とか「ボトムアップ型」とか自称している。この意味は、西野がW杯で、「自分は海外経験もなく選手より格下だ。世界の流行も知らない。だから、最高峰のクラブに所属している選手が主導して、全部決めてくれ」と選手との打ち合わせで言ったわけだけど、基本的に森保はこの西野のやり方を踏襲している、という自覚があるわけ。
つまり、森保はなにも決めない。選手に「命令しない」。そのため、各選手が試合で

  • バラバラ

に行動することになるけど、そうなっても森保は「なにも言わない」。負けても、「なにも言わない」。彼は、世界最先端のクラブで活躍している選手が自分から自分に言ってくれるのを待っている。彼らが言ってこない限り、なにもしないし、なにも決めない。なぜなら、それと関係なく自分が決めたら、選手に

  • ボイコット

をされて、スポンサーに怒られることが分かっているから。
そうすると、なにが起きるだろう?
まず、試合には勝ったり負けたりする。選手が「やりたい」戦い方をするから、選手が自分の特徴を世界にアッピールする場としては最高だろうが、相手のチームが日本の弱点をついてくるとかなると、さっぱり、うまくいかない。ぼろ負けも全然ありうる。そういった「シーソー試合」を繰り返すことになる。
いや。そんなになったら、選手だって嫌なんじゃないかと思うかもしれない。しかし、選手の関心は

  • 自分をクラブチームが高い値段で買ってくれる

ことだから、そもそもそのクラブチームで想定されていない戦い方を自分たちのチームがやったり、相手のチームがやったりすることは「想定外」で、どうでもいいわけだ。今回のイラクやイランだったら、そもそも、W杯や欧州のクラブチームで、あんな戦い方をやっているチームがいない。だから、ああいう戦い方のチームに強くなる必要がないわけw
そんな練習をすること自体が意味がない。まあ、考えてみよう。イランの攻撃は

  • 4トップ

で、四枚、高身長のフィジカルの強い選手を並べて、日本の4バックにプレッシャーをかけ続けた。その場合、まず、両サイドの二人は、身長が低いと

  • ミスマッチ

になってしまう。つまり、その時点で身長の低い日本人はサイドバックをやってはいけない、ということになる。しかし、身長が低く産まれたのは、自分のせいじゃないんだから、どうしようもないわけねw
もう、サイドバックというポジションをやめろと言われているのと変わらなくなるわけで、せいぜいが、日本代表の中で、二種類のタイプの選手をそろえておく必要があるかも、くらいしか言えなくなる。
日本の目標は、四半世紀後に日本がW杯に優勝することだ、と言われている。しかし、そのW杯で今まで、イラクやイランが日本に対して行なったようなプレーで、そのまま、優勝したチームなんてないわけね。みんな、足元のテクニックのある選手で、そもそもW杯では、あんな展開になることが考えられない。
だったら、森保は今回の負けを

  • 忘れよう

とすることすら考えられる。W杯でのコスタリカクロアチアに負けた試合は、どこか、今回のイラクやイランに似ていると言えないこともないが、森保が評価されたのは、ドイツとスペインに勝ったからだ。だったら、森保がコスタリカクロアチアに負けた内容を

  • 反省しない

理由も彼の中では「合理的」である可能性は大きくあるだろう。
そしてそれは選手も同様だ。どうせ、次のW杯は出場国が増えることが分かっているわけで、今まで通りでも予選を突破できる可能性は十分にある。しかも、各選手にとって、戦術を変えられると、今度は自分が出場できなくなる可能性さえ増えてしまう。つまり、選手側に戦術を変えることのモチベーションがない。まあ、身長の低い選手に身長を高くしろと言ったって無理なのだ。
つまりここで「ハリル問題」が再燃する。ハリル問題とは、監督が好きに選手を選べない、という意味である。もっと言えば、監督に戦術を決めさせない。あくまで選手や戦術は

  • スポンサーの意向

の制約の中で決まるものであって、監督の「創造性」や「芸術性」は認められない。つまり、監督は「監督でなくていい」わけである。試合に勝っても負けても、監督はその責任を問われない。あくまで監督は

  • スポンサーの意向通りに振る舞ったかどうか

に関係してしか評価されない。どこまでスポンサーの意向に「従順」だったのか、によってしか評価が与えられない。
ようするに、本田圭佑の「クーデター」以降、日本代表には監督は存在しなくなった。なぜなら、監督がいると選手が「クーデター」を起こして、試合をボイコットするから。よって、試合中の戦術や選手交代は

  • 選手が考えなければならなくなった

わけだ。しかし、当り前だが、試合中に選手がそんなことをできるはずがない。選手はピッチ上の一瞬一瞬で「忙しい」のだから。だとすると、選手が監督に

  • 権限移譲

を行わなければならないはずなのだが、選手は本田圭佑が勝ちとった今の「安穏」とした環境が、あまりに心地よいので、この状況を変えたくない。よって、

  • なにも変わらない

というのが、W杯以降の日本代表の現状、ということになるだろう...。