ディケンズ作品の中の、異色作であり、傑作である。確か、最後の、少女が亡くなる場面は、感動的であるのと同時に、興味深くある。
朝になり、悲しみの対象についてもっと冷静に話せるようになったたとき、彼らは、彼女の生命が終ったときの姿を伝えられた。彼女が死んだのは、二日前のことだった。彼女の死が近づいているのを知っていので、そのとき、人びとはみな彼女のところに集っていた。彼女は夜が明けるとすぐ死亡した。夜がまだふけぬころ、彼らは彼女に本を読み、語りかけていたのだが、時がゆっくりとうつっていくと、彼女は眠りに沈んでいった。夢の中で彼女がかすかに語る言葉で、その夢ではなく、ふたりを助け、ふたりを親切にあつかってうれた人たちの夢だった。彼女が、ときどき、とても熱をこめて、「神さまのみ恵みが授かりますように!」といっていたからである。(中略)彼女は、例のふたりの姉妹のことをよく話した。彼らは自分にとって親しい友人のようだ、といっていた。自分がどんなに見守ってふたりのことを思い、夜、川辺でふたりがいっしょに散歩しているとき、その姿をどんなに見守っていたか、を彼らに伝えてくれ、と彼女はたのんだ。あわれなキットに会いたいものと、最近彼女はよくいっていた。キットによろしくという言葉をだれかが伝えてくれくれるように、と彼女は望んでいた。そのときでも、彼のことを思い出して話をするとき、いつも彼女は、以前の、明るい、陽気な笑い声を立てていた。それ以外のことで、絶対につぶやいたり不平をこぼしたりせず、彼女は、静かな心とまったく変りのない態度で-- 毎日もっと真剣になり、彼らにたいする感謝の情がつのっていた以外に--夏の宵の光のように消えていった。
- 作者: チャールズディケンズ,北川悌二
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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