砂田利一『バナッハ・タルスキーのパラドックス』

バナッハ・タルスキのパラドックスについて、どれくらいの人が知っているのだろうか。
「スイカと地球は、それぞれ、有限個に分割して、平行移動・回転で、それぞれを移動すると、組み合わさって、互いに移り合ってしまう」。
恐らく、多くの人にとってこれは、「偽な命題でなければ困る」と、思うのではないか。だって、ちっちゃいものとおっきいものが、有限分割・平行移動・回転で、お互い、移り合うというのだから、「そんなわけない」ってなもんでしょう。そんなことができちゃ、「大きい」とか「小さい」なんて言い方、意味がなくないか?
それで、証明を見ると、もっとも効いているのが、「選択公理」なんですね。これは、どういう定理か、というと、どんな集合の元に対しても、対応した、元を「選択」できる。言ってみれば、「靴のかたっぽがあったら、もう片方が、みつかる(ただし、その靴のかたっぽは、限りなくたくさんあるが)」。
しかし、これは、かなり、すごいことを言っている。つまり、ここでは、「どうやって」対応する相手を決めるのか、まったく、なんの定義もしていない。だから、まったく、構成的でなく、なんだかわからないけどあるはず、という、存在論なのだ。もちろん、有限の世界だったら、いくらでもやれそうだが、無限の彼方に続くなら、もっと言って、可算個などはるかに越えるものの集合に対応するものって、どうやって決めるの?ってわけだ。
だから今回も、「その有限分割された図形ってなに?」なんですね。もう、「ある」って言われているだけ、存在することだけは保証されているだけの、わけわかんない「形」なんですね。だから、少なくとも言えることは、そいつの「大きさ」なんて測れない(正確に言えば、こういうものの大きさが測れるような測度は存在しえない)。
でもまあ、そうであっても、「こんなの違うはず」という考えはあるはず。そういう方向での検討としては、「選択公理」の制限ですね。もう少し、この定理の条件を厳しくすれば、例えば、もう少し、可算個に近い集合に対してだけ、選択関数の存在を制限できれば、というような。
この本には、証明もついてますし、基本的な、集合論群論の知識しか使ってませんんので、証明を読んでみては、どうでしょうか。

バナッハ・タルスキーのパラドックス (岩波科学ライブラリー (49))

バナッハ・タルスキーのパラドックス (岩波科学ライブラリー (49))