本郷和人『武士から王へ』

この本で、多少、おもしろいのは、最初の方で出てくる、源平の頃以降で、ある地主が、自分の土地を、野武士みたいな連中に取られたので、その土地は自分の権利の土地なので、裁いてほしいと、当時の天皇周辺に依頼したら、あっさりと、「それは自分の仕事じゃない」、という感じで、逃げるような返答しかしない。それで、その地主ががっかりするとともに、国のトップなのに、なんで不正義を見過すんだ、みたいな、天皇への怒りを現すんですね。
ちょっと象徴的ですね。だから、天皇というのは、日本で一番エライはずなのに、まったく、国を治めるとか、国に正義を実現するとか、ほとんど興味のない人たちなんですね。少なくとも、源平以降に、そういう傾向を強くもってくる(そこが、一つの、貴族化なんでしょうけど)。だから、必死になって、天皇こそ、日本の正統だとか、まくしたてている今の人って、なんなんだろうとは、時々思うんですね。
2・26事件にしてもそういう傾向がありますね。事件の中心人物の青年将校が、牢獄の中で、これ以上ないんじゃないかというくらいの、天皇への、うらみつらみ、罵詈雑言を浴せる(その辺りは、

を参照)。
結局、朱子学の名分論でしかないんですよね(本当は、朱子学は、中国の皇帝しか、相手にしてないはずなんですけどね。朝鮮にしても、小国ローカルな理論に使われるんですよね)。だから、日本の天皇主義者は、平田篤胤の神秘的神道か、朱子学の名分、この二つですよね。どっちにしても、なんというか、幼稚というのかな、ちょっと、人を強力にひっぱっていくような、理論のパワーはちょっと、感じないんですけどね。なんでこんなものに、いれあげるのか。

武士から王へ―お上の物語 (ちくま新書)

武士から王へ―お上の物語 (ちくま新書)