日本批評

香山リカ・北原みのり『フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか』

このブログで、ここのところ何度も、東浩紀先生の『観光客の哲学』について言及してきたわけだが、私はこの本が結局何が言いたいのだろう、といったところで、どうしても一つ気になっているのは、いわゆる「上野千鶴子」さんについて言及している個所なわけ…

三谷博『維新史再考』

よく、明治維新は「革命」だったのか? と問われることがある。その意味は、フランス革命と比較して、ということになるが、その「結果」において、ある側面に注目すると、これは間違いなく「革命」だった、と言わざるをえなくなるわけだ。 しかし、明治維新…

岡田麿里『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』

前回は少し感情的に書きすぎたかなと後から思ったわけだが、その理由としては掲題の本を読んでいたからかもしれない。 私の母親はつい最近、脳の出血系の病気で、医者から「もう意識は戻らないだろう(言語系の機能が戻らない)」と言われ、今もその状態なの…

戸田山和久「カントを自然化する」

さて。掲題の著者については、前回、『科学的実在論を擁護する』において、その科学論を「実在論」として「経験論」と敵対する論陣として、その論争を整理する立場の最新の著作について言及したわけだが、今回のこの論文ではなぜか カント について言及して…

戸田山和久『科学的実在論を擁護する』

さて。そもそも科学とは何か、という問いは、普通に考えると馬鹿げた問いのように思われる。というのは、そもそも「科学」と呼ばれてきたものは、言ってみれば、 全て なのであって、人間のこの自然を「支配」しようとして行ってきた全ての営みのことなので…

千葉雅也「ラディカルな有限性」

千葉先生による、思弁的実在論についての哲学史的なまとめが、雑誌「現代思想」に掲載されているが、ここでは、そこでの指摘を敷衍していき、私なりの、特に、ここで説明されている 日本の文脈 なるものに対して、その総括を行いたい。 カント以後、我々は「…

田原彰太郎「カント的行為者を文脈に位置付ける」

よく、道徳と 倫理 は「違う」ものなのではないか、といった議論がされることがある。それは、柄谷行人の『探究』において、一般的なものと単独的なものが区別されていたように、後者にはどこか 個人的関係 とでも言ったらいいと思われるような、その人個人…

藤本忠『時間の思想史』

カントの純粋理性批判が、空間・時間の、ニュートン力学的なベースの上に構築されたものと解釈されることには、一定の正当性があると言わざるをえないわけだが、だとするなら、特殊相対性理論や量子力学が一定の正当性を獲得したこの現代において、こういっ…

城戸淳『理性の深淵』

結局のところ、カントの何が新しかったのだろう、と問いなおしてみると、なかなか難しくて、というのはカントの議論のなにが「成功」しているのか、という問いそのものが難しかったりする、という状況もあるわけで、まあ、なんと言ったらいいのかな、といっ…

千葉清史「「物自体は存在するか」という伝統的な問題の解決によせて」

カントが物自体ということを言ったことについて、同時代からさまざまに批判があって今に至っているわけだが、アリソンの『カントの自由論』というのが翻訳で読んでいて、その物自体そのものの「解釈」が幾つかあるというところから始まっている、ということ…

八木雄二『カントが中世から学んだ直観認識』

カントの純粋理性批判は、まあ、いろいろと書いてあるのだが、その 中心 は最初にある、空間・時間の、アプリオリな純粋直観形式の議論と、第一アンチノミーにおける、空間・時間の無限性の「矛盾」の議論にあると思われる。 しかし、このことはよく考えてみ…

八木雄二『裸足のソクラテス』

ソクラテスといえば、古代ギリシアの現代でも、その言葉が使われる「哲学」の始原のような存在として、今でも言及されるわけだが、なぜそうなのかといえば、言うまでもなく、プラトンの多くの著作の「対話篇」の主人公がソクラテスだからだ。 ところが、その…

土屋信行『首都水没』

3・11の東日本大震災のとき、一つ、私の中で違和感を覚えたことがあった。それは、そこでの多くの死者の直接の原因は、あの 高波 であり、原発事故についても、この高波との因果関係はまったく否定できなかった(実際、福島第二原発の方は高台に作られて…

河村小百合『中央銀行は持ちこたえられるか』

今回の衆議院選挙は、民進党の希望への吸収と立憲民主党の結成で、すべての話題がそっちにもって行かれた雰囲気があるが、与党がなんとか北朝鮮の脅威を強調したいとやっきになっている一方で、もう一つ、どうも雰囲気が変わってきている、と思われる傾向が…

橋本剛『マルクスの人間主義』

小池百合子は「自分は自民党」だとか言っているらしいけどw、なんでこいつは、自民党から出馬しないんだ? いい加減、だれかこの女を黙らせろよ。しかも、とうとう 年金廃止 生活保護廃止 雇用保険廃止 まで、言及し始めたぞw 小池百合子代表は公約発表会…

金慧『カントの政治哲学』

さて。カントの社会契約論こそ、ジョン・ロールズなどの近年の社会契約論に影響を与えたわけであるが、その特徴とはなんだろう? だとすれば、ネーションについても同じことが言えないだろうか。国民(ネーション)はふだん、政治の合理的な思考に基づき行動…

中村修也『天智朝の東アジア』

小池都知事の、東京大震災における、朝鮮人大虐殺についての追悼文の拒否は、その拒否の理由が示しているように非常に深刻な事態だと言えるだろう。それは、朝鮮人学校への補助金の拒否の問題とも関係して、深刻な右寄りの政治家の蛮行と言わざるをえない。 …

大山誠一『天孫降臨の夢』

私が学校で教育を受けた頃はまだ、聖徳太子が実在しなかったということは、明確に記述されていなかったと記憶しているが、近年の教科書では、それはもはや 自明 となっているようである。それについては、掲題の著者も関係しているということのようであるが…

田中克彦『言語学者が語る漢字文明論』

この前、病院に行ったとき、初診の場合は、受付でアンケートのようなものを書かされるわけだが、非常に混んでいて、さっさとこれを書いて提出しないと、順番を後回しにされると思って書いていたのだが、言うまでもなく、私のような(ほとんどの人が同様だと…

安田登『あわい時代の『論語』』

孔子の言う「仁」という言葉は、論語の中でも、著しく「矛盾」している、ということが言われる。そこで、その矛盾とはなんなのか、といったことが問題とされる。 なぜ、「仁」の説明が矛盾してしまうのか? これについて、一つの説明として、その仁を孔子が…

高橋洋一『99%の日本人がわかっていない国債の真実』

例えば、こんな思考実験をしてみよう。お金持ちは言うまでもなく、たくさんのお金をもっている。貧乏人は言うまでもなく、ほとんどお金をもっていない。だったら、次のようなことをしてみよう。まず、日本銀行券を大量に印刷して、それをなんらかの手段によ…

後藤雄太『存在肯定の倫理1 ニヒリズムからの問い』

いわゆる自称「哲学者」さんが言っていることをよく聞いてみると、みんな「同じ」ことを言っていることに気付く。このことは、驚くべき事実なわけであって、ようするに、みんな「同じ」ことを、同じ教科書を読んで学んだので、似通ってしまった、ということ…

植原亮『自然主義』

私は「哲学」という言葉が嫌いだ。それは、この言葉を使う連中が信頼できないからだが、むしろ彼ら自身が 哲学=ポエム ということを認めた上で使っているという意味で、うんざりだ、というわけである。しかし、ある意味で詩人は自らが書く詩において、とき…

太田紘史ほか『モラル・サイコロジー 心と行動から探る倫理学』

人間の利他行動がなぜ存在するのか、というのは、進化論的にはうまく説明できない現象とされている。なぜなら、普通に考えるなら、自らの遺伝子を残す戦略とは「利己的」であることと考えられるから。だとするなら、この人間の「利他行動」は、人間の高度な…

浅田彰・東浩紀・千葉雅也「ポスト・トゥルース時代の現代思想」

浅田彰の還暦を祝うということで、東浩紀先生と千葉雅也さんとが対談を行うということであるのだが、そこでの話題はなぜか「ポスト・トゥルース」だというわけである。 しかし、この対談を読んだ人には、むしろ ポスト・トゥルース=ポストモダン といった認…

柄谷行人「Dの研究 [第6回] 社会主義の科学 その二」

私がときどき思うのは、この世界を「変えたい」として、なんらかの社会システムの変更を提案する人というのは、逆に、「なぜ」そうすべきだと言っているのかが分からなくなることがあるわけである。 なぜ、そう変えるべきなのか? なにが問題だと思っている…

篠田英朗『ほんとうの憲法』

この前の、安倍政権における、安保法制の改正問題において、少し違和感を覚えた議論があった。それは、憲法9条の書いてあることを、子どもの目線で読めば、どう考えても「自衛隊」は違憲だ、という主張であった。 確かに、「陸海空の戦力をもたない」と書い…

西田亮介『不寛容の本質』

東浩紀先生の昨日紹介した、ニセ反原発論についてであるが(なぜエセ科学批判の人は、こういってニセ反原発論の嘘のレトリックを批判しないんだろうねw)、もう二つおかしな論理があって、つまり、放射性廃棄物を無害化を未来において達成できるなら、原発…

斎藤環『人間にとって健康とは何か』

言い方は変だが、私は日本のほとんどの哲学は、 健康人の哲学 だと思っている。例えば、心理学を考えてみよう。人が「心の病」にかかれるのは、そもそも 体が健康 だから、ということが実は前提になっている。すでに、体が「壊れて」いれば、そもそも。精神…

北田暁大・栗原裕一郎・後藤和智『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』

イギリスのロンドンで、タワーマンションが火の海に飲まれた光景は、あっけにとられたというか、あれを見て、高層マンションはダメだな、と改めて思わされた。 高層マンションは火が覆い始めると、まず、高層の人は逃げられない。それだけでも、人が済む場所…