海外批評

ジェイムズ・S・フィシュキン『人々の声が響き合うとき』

もしあなたが、病気なり怪我なりで、病院のお世話になるとき、「インフォームド・コンセントなんて不要だ」と言う人を信用できるだろうか? 言わば、これこそが、近年さかんに話題になっている「熟議民主主義」の意味なのではないか、と思っている。 民主的…

キャス・サンスティーン「共和主義の復活を越えて」

選挙を前にして、日本の政党の数がインフレーションを起こしている今の姿には、なんとも言えない不思議な光景のように思っている人もいるのかもしれない。 小選挙区制によって、二大政党の時代に突入したと言われていて、民主党によって、政権交代までが実現…

マーサ・スタウト『良心をもたない人たち』

(さて、オバマが再選ということだが、これって、彼の医療制度改革を、ヒスパニックなどのマジョリティが支持した、ということを意味しているのだろうか?) 掲題の本も、ある意味で、ある種の傾向をもった性格をしている人を dis ることを目的としていると…

ミシェル・フーコー『真理とディスクール』

少し前に、計算には通信が不可分の関係にあるんじゃないのか、と書いたとき、頭にあったのは、ケインズの美人投票であった。 だれが美人だと思うかを言う:ある人A --> ある人B この場合に、私たちが思うのは、「Aには二人、いるんじゃないのか」というこ…

リチャード・セイラー『実践行動経済学』

(キャス・サンスティーンとの共著。) ある人Aが、別のある人Bに、なにかをしてあげる(行為C)、とする。この場合に、ある人Aが、その行為Cを、 なんの見返りも期待せず、純粋に、「ある人Bのため」を思って、行った と判断できる場合に、「パターナ…

ヨアヒム・ラートカウ『自然と権力』

(掲題の本はまだ、前半しか読んでませんが、いったん、まとめます。) 柄谷さんの『<世界史>の構造』は、人と人の関係を「交換」というアイデアによって整理していくことで、世界史を再解釈するような仕事であった。この仕事は、どこか、ヘーゲルの歴史学…

ニクラス・ルーマン『手続を通しての正統化』

池田信夫は、自らのブログで、現代社会が、一方において、近代以前の徳治国家のような、皇帝といった統治者による、国民に対する、属人的な恣意的強制から 自由 になっていく一方で、他方において、間接民主制を通した、市民の「意志」と一旦は切断され、濾…

L・フェスティンガー『予言がはずれるとき』

(全体的に、掲題の本とあまり関係ない話が多くなってます。) 認知的不協和理論というと、私は、漫画の『ナニワ金融道』を、思い出す。 作者が亡くなった後も、連載は続いているようだが、私は読んでいない。おそらく、さらにテクニカルな話が続いているの…

キャス・サンスティーン『インターネットは民主主義の敵か』

それにしても、私が昨日の総理の会見を興味深く思ったのは、あれが、 総理の「意見」 として言われていたことだ。つまり、総理自身がこれ(関西原発再稼働)を、 一般意志「ではない」 と言っているに等しいということなのである。国民の大多数は、自分とは…

オギ・オーガス『性欲の科学』

(サイ・ガダムとの共著。) 往々にして、人間の科学は、思わしい成果を上げない。なぜなら、調査対象である、人間の方が身構えてしまうからである。人間は自らが調査対象と分かった途端に、その被調査者の「意図」に沿った行動を意識し始める。近年の日本の…

シヴァ・ヴァイディアナサン『グーグル化の見えざる代償』

ITやインターネットは、今まで考えてきた、さまざまな「常識」。 例えば、その一つ一つの「用語」の「意味」「定義」を変えてしまったと言っていいような、変化を起こしている。 たとえば、著作権。たとえば、個人情報。 コンピュータがない時代までの情報…

サイモン・ジョンソン『国家対巨大銀行』

(ジェームズ・クワックとの共著。) 私たちは、そもそも、経済学とはなんだと考えているのだろう? この問いの意味は、経済学とは、あくまで、お金の「流れ」と「淀み」を分析し、その現象を理解することだと思うからである。 そうすることで、今度はその「…

ニコラス・シャクソン『タックスヘイブンの闇』

私たちは、世の中には、さまざまなルールというものがあって、人々はそれに従って、ルールの中で生きている、と思っている。 もし自分が、そのルールの外に、「気付かずに、思わず」出てしまったとき、「親切な」おまわりさんが自分に「注意」してくれて、そ…

マウリツィオ・ラッツァラート「借金人間製造工場」

レピュテーション・マネジメント(評判管理)においては、その第一歩は、顧客の主体性に依存する形で、戦略(ストラテジー)を考えざるをえない、という認識から始まっていた。 つまり、相手を自分が思う通りにはできない、だから、なんらかの「相手の動きに…

ダニエル・ディアマイアー『「評判」はマネジメントせよ』

マネージメントとは、経営学の一つの考え方で、あらゆる企業経営の問題の解決とその解決の責任を、 マネージャー 一人に集約させる思想、だといえるだろう。このように言うと、かなり過激な思想に思われるかもしれない。 例えば、多くの事故調査委員会では、…

ジグムント・バウマン『コラテラル・ダメージ』

NHKの「追跡!真相ファイル」は、なかなか、衝撃的な構成で、大衆に影響したのではないか。私には、意味の分かりにくい部分もあったが、それなりに、製作者側の意図は理解できた。 しかし、それ以上におもしろいのは、ネット上の御用学者たちの、ヒステリ…

ジェフ・ジャービス『パブリック』

この本を、どういった視点で読むか。この本は、一言で言えば、掲題の著者がディープなフェースブックやツイッターなどのSNSユーザーで、その有用さを理解するがゆえに、いわゆる「プライバシー規制」の法的な動きと、そういったものとの対立を、SNSユ…

ジョン・グレイ『ユートピア政治の終焉』

掲題の著者のような、人が一般にどのように受け取られているのかを私は知らない。知らないんですけど、この掲題の本のようなものを、「哲学」と呼ぶべきなんじゃないか、と思うんですけどね。 どうも日本の哲学的な言論をする人たちって、いわゆる「哲学研究…

タイラー・コーエン『大停滞』

近年のTPP論議の不気味さは、いわゆる、経済学「優等生」たちの「模範的回答」が、アメリカ側の要求の丸飲み、だということだろう。 アメリカ側の、市場解放の要求に、優等生たちは、「原則論」から、言われるがままに行うことを、当然のこととしている。…

ジョン・グレイ『自由主義論』

あれほど、ジャスミン革命について話していた論者が、アメリカのウォール街デモに言及、取材しないのは、なんなのだろう。きっとこれは彼らの考える、 ソーシャルネット の「悪い」使い方だからなのだろう。もちろん、こういった動きは日本にも波及するだろ…

トーマス・フリードマン『フラット化する世界』

なぜ、戦後の日本は先進国になれたのか。それは、戦後すぐから始まる冷戦体制による、偶然だったのだろうか。日本の戦後の復興とは、アメリカへの工業製品輸出によるものだったと言えるだろうか。その場合には、なにが成功の鍵を握るだろう。 日本からアメリ…

ゴードン・ベル『ライフログのすすめ』

ライフログという考えについて、真剣に考えたことがある人はどれくらいいるだろうか。 人間には感覚といわれる器官がある。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。もちろん、人間の体内においては、そういったものとは一見無関係に、言わば、自律的に活動している器…

マッケンジー・ワーク『ハッカー宣言』

私には、311以降に、いわゆる世間で「経済学」なるものを自らのバックボーンにしている人たちが、「さらした」醜態は、一体なんだったのかな、という気持ちが強い。 彼らは、さまざまな屁理屈を並べた後、結局のところ今は原発を動かすことが「経済合理的…

ジェフリー・サックス『貧困の終焉』

ツイッターは、一般に公開の場で、特に、アカウントと共に「会話」ができる機能をもつことにより、日本人の間で、一気に普及した。この普及率において、世界でも群を抜いているのではないだろうか。 ツイッターの特徴については、近年も多くの人が語っている…

イアン・ブレマー『自由市場の終焉』

(以前も書いた記憶がありますが、基本的にコメント欄につきましては、その記事への補足的な意味を少しであれ感じられた場合は、できるだけ承認する考えです。基本的に、どういった考えの方であれ、その人の意見を尊重しますが、しかしそれは、あくまでその…

ジェイン・ジェイコブズ『アメリカ 大都市の死と再生』

今月の、朝なまは、この前、勝間さんなどが出演して、私がこのブログで批判した時とは、ずいぶん雰囲気が変わってしまっていた。 全体的にずっと、原発懐疑的になっていた。 こういった形に変わった直接の原因がどこにあったのか分からないが、さすがにこの…

フランシス・S・コリンズ『遺伝子医療革命』

今回の、東日本大地震において、死者のおよそ6割が60歳以上であったというニュースがあった。この老人の死者の割合は、やはり大きいと言わざるをえない。 津波において、なによりも重要なことが、一秒でも早く、安全な場所に移動することだったとするなら…

ロベルト・エスポジト『三人称の哲学』

原発問題が、国策に関連したものであることを認識することは、これを「公害」問題の延長で考えたとき、ある「人間」の定義の問題が再燃する不吉な予感にとらわれる。 たとえば、福島のあの惨状において、今だに、あの場に留まり作業をしている人がいるという…

リチャード・ローティ『アメリカ 未完のプロジェクト』

こんなふうに言ってみよう。 正直、哲学とはなにがしである、みたいな議論には、うんざりだ。それは、学校の中でやっててほしい。大学の外では関係ない話だ。 しかし、これと同じくらいに、多くの衒学的な議論を生みだしてきたものがある。右翼と左翼、だ。 …

ウルリヒ・ベック『危険社会』

今、あらためて、この本を読み直している人も、多いのではないだろうか。 この本は、チェルノブイリ原発事故「について」書かれた本であると、一般には思われているが、それは正しくない。というのは、本文はすでに、それ以前に書かれていたからだ。 しかし…